OTC類似薬の「保険適用除外」は見送りへ。別途負担の仕組みと薬剤師が押さえる4つのポイント
2026.07.23

患者から「ロキソニンは保険が効かなくなるんですか」と聞かれ、答えに詰まった経験はないでしょうか。
結論から言えば、医療保険から完全に外す「保険適用除外」は見送られました。
代わりに決まったのは、対象となる薬の薬剤料の4分の1を、通常の窓口負担とは別に患者が負担するという仕組みです。
改正法はすでに成立しており、施行は2027年3月が想定されています。
「保険が使えなくなる」という誤解のまま伝わると、必要な受診を控える患者が出かねないため、窓口では正確な説明が欠かせません。
この記事では、対象範囲や施行時期、薬局が受ける影響、患者への説明のポイントまでを順に整理していきます。
目次
総合病院門前の薬局で勤務中(7年目)。研修認定薬剤師、NR・サプリメントアドバイザーの資格を取得。 在宅や学校薬剤師など幅広く活動しています!
2児のママ薬剤師をしながら、医療ライターとしてさまざまな記事を執筆しています。
OTC類似薬の「保険適用除外」は見送り、「一部保険外療養」が新設された
今回の見直しで創設されたのは、保険適用からの完全な除外ではなく、「一部保険外療養」と呼ばれる新たな仕組みです。
対象となる薬では、薬剤費の4分の1相当を「特別の料金」として、通常の自己負担とは別に患者へ求める仕組みです。
残る4分の3にはこれまでどおり保険が適用され、患者はその部分について通常の1〜3割を負担します。これに加えて、薬剤費の4分の1相当の「特別の料金」がかかります。
対象は薬剤費に限られており、診察や処置にかかる費用は制度の対象に含まれません。
「除外」という言葉から受ける印象とは異なり、保険の枠内に残したまま負担の一部を保険の外に置く設計だと押さえておきましょう。
OTC類似薬の保険給付が見直される背景
OTC類似薬の保険給付見直しが議論されてきた背景には、大きく以下3つの要素があります。
- 医療費の増大と現役世代の保険料負担
- セルフメディケーションの推進
- 骨太の方針への明記から制度化までの流れ
これらは今回の改正で突然浮上した論点ではなく、以前から医療保険制度の見直しにおいて議論されてきたテーマです。
今回、骨太の方針への明記や与党間の合意を経て、具体的な制度として形になりました。
医療費の増大と現役世代の負担軽減
議論の土台にあるのは、医療費の伸びと保険料負担の重さという構造的な問題です。
高齢化が進むなかで医療費は増加を続けており、その財源の多くは現役世代の保険料でまかなわれています。
平日の診療時間に受診しにくいなどの理由から、市販薬を自費で購入している人も少なくありません。
厚生労働省は、こうした患者と医療用医薬品で給付を受ける患者との公平性を確保し、現役世代の保険料負担を軽減する観点を挙げています。
セルフメディケーションの推進
もう一つの流れが、軽い症状には市販薬で対応するセルフメディケーションの後押しです。
国は以前から、スイッチOTC化を進めて市販薬で対応できる範囲を広げる方針を示してきました。
今回の見直しでも、セルフメディケーションに関する国民の理解を深める取り組みや、スイッチOTC化に係る政府目標の達成に向けた環境整備を進めるとされています。
制度の対象を広げる話とあわせて、市販薬を選びやすくする環境づくりも同時に進む点が特徴です。
骨太の方針への位置づけと制度化までの流れ
政策としての位置づけがはっきりしたのは、2025年6月に閣議決定された骨太の方針です。
医療の質やアクセス、患者の利便性に配慮しつつ、2025年末までの予算編成過程で検討し、令和8年度から実施することが明記されました。
その後、2025年12月に対象範囲や特別の料金の水準が示され、2026年5月に改正法が成立しました。政策方針としての検討から、具体的な制度の成立へと進んだ形です。
こどもや慢性疾患を抱える方、低所得の方への配慮は、骨太の方針の段階から一貫して示されてきた条件です。
【ポイント1】対象は77成分、薬剤費の4分の1が「特別の料金」に
窓口対応のうえで最初に押さえたいのが、対象となる薬の範囲と、料金の水準です。
あわせて、負担を求めない「配慮対象」も知っておくと、患者からの問い合わせに答えやすくなります。
自分が扱う薬のうち何が対象になり得るかを把握しておくことが、施行への備えの第一歩になるでしょう。
対象は77成分・約1,100品目
対象になるのは、市販薬と成分・投与経路が同一で、1日の最大用量も変わらない医療用医薬品です。
この条件で機械的に選ばれた結果、77成分・約1,100品目が示されています。
主な対応症状は、鼻炎、胃痛・胸焼け、解熱・痛み止め、かぜ症状、皮膚のかゆみ、乾燥肌などです。
ただし個別の品目は施行に向けた技術的検討会で精査される段階にあり、成分の増減や入れ替えの可能性も残されています。
特別の料金は「薬剤費の4分の1」
料金の水準は、対象となる薬の薬剤費の4分の1に設定されました。
薬剤費の4分の1相当が「特別の料金」として、患者の通常の自己負担とは別に求められます。
残る4分の3にはこれまでどおり保険が適用され、窓口での負担割合は1〜3割のままです。
保険給付の部分が1割の患者と3割の患者とでは、上乗せ後の支払総額の増え方に差が生じる点も押さえておきましょう。
なお対象は薬剤費に限られており、調剤技術料や薬学管理料といった費用は制度の対象に含まれません。
特別の料金を求めない「配慮対象」
すべての患者に一律で負担を求めるわけではなく、特別の料金を求めない配慮対象となる方が想定されています。
厚生労働省の資料では、次の5つが挙げられました。
- こども
- がんや難病など、配慮が必要な慢性疾患を抱えている方
- 低所得者
- 入院患者
- 医師が対象医薬品の長期使用などを医療上必要と考える方
対象の薬であっても、患者の状況によっては特別の料金が生じないケースもあります。
どの患者が該当するかの具体的な基準は、施行に向けて詰められている段階です。
【ポイント2】実施時期と令和9年度以降の対象拡大の見通し
改正法は2026年5月に成立し、施行は2027年3月が想定されています。
ただし現時点で確定しているのは制度の骨格だけで、対象品目や配慮対象の判断基準は、施行に向けた技術的検討会で議論されている最中です。
さらに、この制度は77成分で終わるわけではなく、令和9年度以降には対象範囲を広げる方針も示されています。
施行までは技術的検討会で詳細を調整
厚生労働省は2026年6月に第1回の技術的検討会を開き、対象医薬品の範囲や特別の料金を求めない方の範囲について議論しました。
その内容を整理したうえで、医療保険部会や中央社会保険医療協議会へ報告する流れが示されています。
つまり施行までの約1年は、対象品目の一覧や運用の細部が固まっていく期間にあたります。
確定した情報と検討中の情報が混在する時期のため、患者への案内は断定を避け、厚生労働省の資料でその都度最新の記載を確かめるようにしましょう。
令和9年度以降は対象範囲や料金割合の見直しも検討
令和9年度以降は、対象範囲をさらに広げることが検討されています。
将来的には、市販薬と同じ症状に適応がある処方箋医薬品以外の医療用医薬品の相当部分まで、対象を広げることが目指されています。
特別の料金の割合を引き上げる案も、あわせて検討事項のひとつです。
2026年7月時点で示されている77成分・薬剤費の4分の1は、あくまで出発点だと捉えておきましょう。
【ポイント3】保険適用除外の見直しで薬局・薬剤師が受ける影響
制度の変更は、患者だけでなく薬局の実務にも影響を及ぼします。
想定されるのは、代替薬への処方シフト、窓口負担増に伴う受診控えや処方辞退、そして患者からの問い合わせ増加の3つです。
いずれも施行後に急に現れるわけではなく、制度が知られるにつれて少しずつ表面化していくでしょう。
保険適用薬(代替薬)への処方シフト
まず想定されるのが、特別の料金がかからない代替薬への処方シフトです。
同じ効能でも対象外の成分であれば追加の負担は生じないため、そちらを希望する患者や医師が出てくると考えられます。
処方の傾向が変われば、これまで動きの少なかった品目の需要が増えることもあるでしょう。
在庫の持ち方や発注の判断にも影響するため、対象品目とその代替薬の関係は早めに整理しておきたいところです。
窓口負担増に伴う受診控えや処方辞退
次に想定されるのが、患者の受診行動の変化です。
制度導入後にどの程度生じるかは現時点では不明ですが、窓口での支払いが増えることで、受診を控えたり、処方された対象薬の使用を見送ったりする患者が出る可能性もあります。
とくに複数の対象薬が処方されている場合や、長期処方の場合は、負担の増え方が大きくなります。
必要な治療が中断されないよう、患者の様子に気を配りながら、受診の必要性を伝えていく姿勢が求められるでしょう。
患者からの問い合わせ増加
施行が近づくにつれて増えるのが、患者からの問い合わせです。
「自分の薬は対象なのか」「いくら高くなるのか」「免除されないのか」といった質問が、窓口に集中すると見込まれます。
薬剤師側の理解があいまいなままだと、誤った説明が広がり、患者の不安をかえって強めてしまいかねません。
制度の要点と配慮対象をあらかじめ整理し、想定問答を薬局内で共有しておくと、落ち着いて対応できるでしょう。
【ポイント4】薬剤師に求められる対応と患者説明のポイント
窓口で薬剤師に求められるのは、制度を正確に伝え、患者が過度に不安を抱かないよう橋渡しをする役割です。
説明の土台になるのは、完全な保険適用除外ではないという事実です。
たとえば「この薬は保険が使えなくなるのですか」と聞かれた場合は、「完全に保険が使えなくなるわけではなく、対象薬では薬剤費の4分の1相当が通常の自己負担とは別にかかる仕組みです」と説明すると、制度の概要を伝えやすくなります。
制度の内容を誤って理解したままでは、必要な受診まで控えてしまう患者が出かねません。
あわせて伝えたいのが、こどもやがん・難病などの患者、低所得者、入院患者といった配慮対象の存在です。
ただし、判断基準は施行に向けて詰められている段階のため、断定を避けた案内を心がけましょう。
市販薬の相談に応じ、制度の動きも追い続ける
薬剤師の専門性が生きるのが、市販薬への切り替え相談です。
症状が軽く市販薬で対応できる場合には、患者の状態を確認したうえで、適切な市販薬や受診の目安を助言できます。
一方で、市販薬では対応が難しい症状を見分け、受診が必要な患者を医療へつなぐ判断も欠かせません。
もう一つ心がけたいのが、この制度が今後も変わっていくという前提に立つことです。
対象品目や配慮対象の基準は施行に向けて調整が続き、令和9年度以降は対象範囲と料金割合の見直しも予定されています。
古い情報のまま案内すると患者との行き違いにつながるため、厚生労働省の資料を折に触れて確かめ、薬局内で共有しておきましょう。
まとめ
「OTC類似薬が保険適用から外れる」という情報が広まりましたが、実際に決まったのは完全な除外ではありません。
創設されたのは、対象薬の薬剤費の4分の1相当を「特別の料金」として、通常の自己負担とは別に患者に求める「一部保険外療養」という仕組みです。
残る4分の3には保険が適用されるため、窓口では「保険が使えなくなるわけではない」と伝えることが出発点になります。
対象は77成分・約1,100品目で、鼻水や胃痛、解熱・痛み止めなど日常的に扱う処方が含まれました。
一方、こどもやがん・難病などの患者、低所得者、入院患者は配慮対象として想定されています。
施行は2027年3月が想定されるものの、対象品目や配慮対象の判断基準は、いまも技術的検討会で議論が続く段階です。
令和9年度以降は、対象範囲の拡大や特別の料金の割合の引き上げも検討されています。
施行までに制度の詳細が変わる可能性もあるため、厚生労働省の最新資料を確認しながら、薬局内で情報を共有しておくことが重要です。