薬剤師が知っておきたい医療保険制度改革のポイント 給付と負担はこう変わる
2026.07.25

高額療養費に金融所得、OTC類似薬と、次々に流れてくる改正のニュースを前に、どこから押さえればよいか迷っていないでしょうか。
令和8年5月に成立した健康保険法等の一部改正法は、給付と負担のあり方を広く見直す、制度の土台に関わる大きな改革になります。
背景にあるのは、医療保険制度の持続可能性を高め、現役世代の負担を抑えつつ、世代間・世代内の公平を確保するという狙いです。
改革は大きく4つの柱、すなわち①OTC類似薬の負担見直し、②高額療養費の年間上限、③後期高齢者の金融所得の反映、④妊娠・出産と子育て世帯への支援で構成されています。
この記事では、それぞれの改正項目を「自分の業務で何が起きるか」という薬剤師の視点から順に整理していきます。
まずは4つの柱を押さえ、自分の薬局で何を備えるべきかを見極めるところから始めていきましょう。
目次
総合病院門前の薬局で勤務中(7年目)。研修認定薬剤師、NR・サプリメントアドバイザーの資格を取得。 在宅や学校薬剤師など幅広く活動しています!
2児のママ薬剤師をしながら、医療ライターとしてさまざまな記事を執筆しています。
令和8年度の医療保険制度改革とは?診療報酬改定との違い
今回の医療保険制度改革は、健康保険法をはじめとする複数の法律をまとめて改める、給付と負担の見直しです。
正式には健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)として、令和8年5月29日に成立しました。
必要な保険給付を維持しながら、現役世代と高齢者の間、また同じ世代のなかでも、負担能力に応じた公平な仕組みへ近づけることが目的です。
診療報酬改定が2年ごとに点数や算定要件を見直すのに対し、今回の改革では法律そのものを改め、保険給付の範囲や患者の自己負担のあり方を変えます。
同じ制度改正でも対象とする範囲が異なるため、切り分けて押さえておく必要があります。
【ポイント①】 OTC類似薬の薬剤費の一部が保険給付から外れる
1つ目の柱は、OTC医薬品で代替できる薬について、薬剤費の一部を保険給付の対象外とする見直しです。
市販薬と成分などが同じ医療用医薬品の薬剤料の4分の1を、通常の窓口負担とは別に患者が負担する仕組みが創設されます。
患者の支払額が直接変わるため、4つの柱のなかでも窓口対応への影響がとくに大きい項目です。
詳しい仕組みについては、関連記事『OTC類似薬 保険適用除外』をご覧ください。
対象・施行時期の現時点での見通し
対象となるのは、市販薬と成分・投与経路が同一で、1日の最大用量も変わらない医療用医薬品です。
厚生労働省の資料では、2026年7月時点で77成分・約1,100品目が対象の目安として示されています。
主な対応症状は、鼻炎、解熱・痛み止め、皮膚のかゆみや乾燥肌などです。
こども、がん・難病などの患者、低所得者、入院患者、医師が医療上必要と判断した方への配慮措置は、施行に向けて詳細が詰められている段階にあります。
施行は2027年3月が想定されており、門前でこれらの症状の処方を多く扱う薬局ほど、対象品目を早めに把握しておく価値があります。
配慮措置の線引きは今後の情報で変わり得るため、確定情報が出るまでは断定的な案内を控えるのが安全です。
窓口で「なぜ負担が増えるのか」と問われたら
負担増の理由を聞かれたときは、金額の説明の前に制度の趣旨から伝えると納得を得やすくなります。
軸になるのは、同じ薬を市販薬として自費で買う人と、処方で受け取る人との間の負担をそろえるための見直しだという点です。
保険が使えなくなるわけではなく、薬剤料の一部だけを患者に負担してもらう仕組みです。
そのうえで、対象薬では薬剤料の4分の1が上乗せされること、配慮対象に当たる患者には負担を求めない場合があることを添えます。
患者の多くは負担が増える事実そのものより、理由がはっきりしないことに不安を覚えるものです。
金額と理由、そして例外をあわせて示すことが、不公平感をやわらげる助けになるでしょう。
参考資料:厚生労働省「OTC類似薬の薬剤給付の見直し」(PDF)
【ポイント②】 高額療養費に「年間の上限」が新設される
2つ目の柱は、高額療養費に年単位の上限を設ける見直しです。
これまでの月ごとの自己負担限度額に加えて、1年間に支払う自己負担の合計にも歯止めが設けられます。
同時に月ごとの限度額は段階的に引き上げられるため、負担が増える面と軽くなる面の両方を含む見直しになっています。
適用は令和8年8月から始まります。
長期療養者ほど恩恵が大きい設計
年間の上限が支えとなるのは、治療が長く続く患者の家計です。
月ごとの限度額に届かない支払いが何か月も積み重なると、1年を通した負担は大きくなっていきます。
年間の上限を超えた分は保険者から還付されるので、長く治療を続ける患者ほど負担が抑えられるでしょう。
長期にわたり高額療養費を受ける方の家計への影響に配慮する点は、今回の法律でも明確にされました。
上限額は所得区分によって異なり、当面は患者本人の申出にもとづいて還付が行われる見通しです。
服薬指導で誤解を招かない触れ方
患者に伝えるときは、月ごとの上限と年間の上限という2つの仕組みがあると整理して示しましょう。
窓口での支払いがその場で不要になるわけではなく、いったん支払ったあとに保険者から還付される流れになります。(マイナ保険証利用者、限度額適用認定証を提出している方は除く)
具体的な上限額は所得区分や加入する保険者によって異なるため、金額を断定せず、保険者への確認を促すのが安全です。
薬局の役割は、制度があることを知らせ、詳しい手続きの窓口へつなぐところにあります。
運用の細部は今後の政令などで定まる部分もあるため、案内の内容は事前に確かめておきましょう。
【ポイント③】 後期高齢者の負担に金融所得が反映される
3つ目の柱は、後期高齢者医療で、金融所得を窓口負担割合や保険料の判定に反映する見直しです。
上場株式の配当などは、確定申告をするかどうかで判定に含まれるかが変わり、同じ収入でも負担に差が生じていました。
年金収入が少なく金融所得が多い場合、窓口負担が1割にとどまることもあり、公平性の観点から課題とされてきた部分です。
今回の見直しは、金融資産を持つ人に一律の負担を求めるものではなく、申告方法による不公平をなくすことを目的としています。
NISAは対象外、個人の事務負担も増えない
まず押さえておきたいのは、非課税のNISAが反映の対象外だという点です。
対象となる金融所得は、金融機関などが提出する法定調書を活用して把握されます。
法定調書のオンライン提出を義務づけ、そのデータを広域連合や市区町村が確認する仕組みが想定されています。
把握は行政側で完結するため、患者が新たに申告や手続きを求められることはありません。
投資をしている高齢患者から質問を受けても、NISAは対象外で、追加の作業も生じないと伝えられるでしょう。
高齢患者への対応で押さえる背景知識
薬局で金融所得の計算まで担うことはありませんが、背景を知っておくと高齢患者の相談にも落ち着いて応じられます。
施行日は公布から一定期間内に政令で定めるとされ、システム整備に時間を要することから、実際の導入は2030~2031年度ごろになる見通しです。
当面の対象は75歳以上に限られるため、現役世代の健康保険にただちに及ぶわけではありません。
高齢患者から不安の声が出たときは、仕組みの詳細がこれから固まる段階だと伝えると安心につながるでしょう。
将来的には国民健康保険への拡大も議論されているため、続報を折に触れて確認しておきましょう。
【ポイント④】 妊娠・出産と子育て世帯の負担が軽くなる
4つ目の柱は、妊娠・出産にかかる費用と、子育て世帯の保険料負担を軽くする見直しです。
これまで出産育児一時金として現金で支給されていた仕組みが、保険給付として直接カバーする形へ切り替わります。
妊娠期から子育て期までを通して、家計の負担を段階的にやわらげていく狙いがあります。
主な内容は、次の3つです。
- 出産の標準的な費用に自己負担がかからない給付方式への見直しと、全員への定額の現金給付
- 妊婦健診の標準額を定め、検査内容や費用の見える化を進める環境整備
- 国民健康保険で、子どもの均等割保険料の5割軽減の対象を、未就学児から高校生年代まで拡充
患者と接する場面での押さえどころ
薬局の窓口業務に直接かかわる項目は多くありませんが、妊娠中や子育て中の患者と接する場面での背景知識になります。
注意したいのは、標準的な費用が対象であり、無痛分娩や個室の利用料などは自己負担として残る点です。
費用の不安を聞いたときは、負担を軽くする方向で制度が動いていると伝えつつ、詳細は加入する保険者や自治体の案内に委ねましょう。
出産費用の全国一律の価格設定など、細かな設計はこれから詰められる段階にあります。
多くの項目は令和9年度に向けて順次施行される見通しのため、時期は最新の資料で確かめてください。
施行スケジュール一覧と薬剤師が今から備えること
改革は一度に始まるのではなく、項目ごとに時期が分かれて進んでいきます。
最も早いのは2026年8月の高額療養費で、金融所得の反映のようにシステム整備を待つ項目は数年先の見通しです。
主な改正項目の施行時期は、下の表のとおりです。
| 改正項目 | 施行時期(想定) |
| ①OTC類似薬の別途負担(一部保険外療養) | 2027年3月を想定 |
| ②高額療養費の年間上限 | 2026年8月から段階的に |
| ③後期高齢者の金融所得の反映 | 2030~2031年ごろの見通し |
| ④妊娠・出産・子育て世帯への支援 | 2027年4月から段階的に |
薬剤師が優先しておさえるべき項目
薬剤師の実務に最も響くのは、窓口負担が直接変わるOTC類似薬の別途負担です。
対象品目や配慮措置の詳細が固まり次第、患者説明の準備を整えておくと、施行時の混乱を抑えられます。
次に押さえたいのが高額療養費の年間上限で、長期療養の患者から相談を受けたときの入り口として役立つでしょう。
金融所得の反映と妊娠・出産への支援は、直接の業務変更こそ小さいものの、高齢患者や子育て世帯との会話で背景知識として生きてきます。
いずれの項目も数値や時期が今後動くため、厚生労働省の最新資料を起点に情報を更新していきましょう。
まとめ
今回の改革は、いずれの項目も窓口で患者に説明する場面につながっています。
まず押さえておきたいのは、令和8年8月に始まる高額療養費の年間上限と、2027年3月施行が想定されるOTC類似薬の別途負担です。
高額療養費は年間の上限が設けられる一方で月ごとの限度額は引き上げられるため、軽くなる面と重くなる面をあわせて伝えたいところです。
OTC類似薬は、対象品目や配慮措置が固まった段階で、患者への説明をどう組み立てるかが問われるでしょう。
金融所得の反映は施行時期が数年先であり、妊娠・出産への支援も薬局では直接かかわる場面が多くはありませんが、高齢患者や子育て世帯との会話では背景知識として生きてきます。
制度の細部は、これからも政令などで動いていく見通しです。
その都度、厚生労働省の資料を確認する習慣をつけておけば、患者から問われたときにも落ち着いて答えられるでしょう。