喘息の病態生理と診断|薬剤師が押さえておくべきポイント
2025.12.15

喘息は慢性の気道炎症を基盤とする疾患であり、発作時の対応だけでなく日常的な管理が求められます。
薬剤師は吸入指導や服薬支援を通じて患者と接する機会が多く、病態生理や診断の基礎知識を持つことで、より的確な情報提供が可能になるでしょう。
この記事では、喘息の定義から病態生理、診断のポイントまで、薬剤師が押さえておくべき内容を整理します。
目次
喘息とは
喘息は、慢性の気道炎症を基盤とし、可逆性の気道狭窄と気道過敏性の亢進を特徴とする疾患です。
主な症状として、咳嗽、喘鳴、呼吸困難、胸部圧迫感があり、これらの症状は日内変動や季節変動を示すことが多く、夜間から早朝にかけて悪化しやすい傾向にあります。
また、発症や増悪の誘因は多岐にわたります。アレルゲン(ダニ、花粉、ペットなど)への曝露、気道感染、運動、気温や気圧の変化、ストレス、喫煙などが代表的です。
薬剤師は患者から症状の聞き取りを行う際、これらの誘因や症状の変動パターンを把握することが重要になります。患者自身が気づいていない増悪因子を見つけ出し、生活指導につなげることも薬剤師の役割といえるでしょう。
喘息の病態生理
喘息の病態は、気道炎症、気道リモデリング、可逆性の気道狭窄という3つの要素で構成されています。これらのメカニズムを理解することで、治療薬の作用機序や早期介入の重要性が明確になるでしょう。薬剤師として患者指導を行う際の基盤となる知識を整理します。
気道炎症のメカニズム
喘息の病態の中心は気道の慢性炎症です。喘息では、Th2細胞やILC2(2型自然リンパ球)が産生するIL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインが好酸球の活性化・遊走を促進し、気道の炎症を持続させます。
また、マスト細胞でも、アレルゲン刺激によりヒスタミンやロイコトリエンを放出して気道収縮や粘液分泌を引き起こします。
吸入ステロイド薬(ICS)は、この気道炎症を抑制する治療薬です。薬剤師がICSの作用機序を理解しておくことで、患者への説明や服薬アドヒアランス向上に役立てることが可能になります。
気道リモデリング
慢性的な気道炎症が持続すると、気道構造に不可逆的な変化が生じます。これが気道リモデリングと呼ばれる現象です。
具体的には、気道上皮の肥厚、基底膜の線維化、平滑筋の肥大・増殖、粘液腺の過形成などが起こります。リモデリングが進行すると、気道狭窄が固定化し、治療への反応性が低下します。
ICSの早期導入が推奨される理由の一つは、このリモデリングの進行を抑制できる可能性があるためです。薬剤師は、軽症であっても継続的な抗炎症治療の重要性を患者に伝える必要があります。
可逆性の気道狭窄
喘息発作時には、気道平滑筋の収縮、粘膜浮腫、粘液分泌の増加が重なり、急性の気道狭窄が生じます。この気道閉塞は可逆性であり、β2刺激薬の投与や自然経過により改善することが特徴です。
短時間作用性β2刺激薬(SABA)は気道平滑筋を弛緩させ、速やかに気道を拡張させる作用を持ちます。発作時の第一選択薬として位置づけられており、薬剤師は使用方法や使用頻度の確認を行うことが大切です。
SABAの使用頻度が増加している場合、喘息コントロールが悪化しているサインである可能性があるため、医師への受診を勧めるべきでしょう。
喘息の診断
喘息の診断は、症状の問診、呼吸機能検査、各種検査による炎症評価、他疾患との鑑別を組み合わせて総合的に行われます。薬剤師が診断プロセスを理解しておくことで、処方意図の把握や患者からの相談対応に活かすことができるでしょう。
ここでは診断における4つのポイントを解説します。
症状評価
喘息の診断において、特徴的な症状の問診が最も重要な出発点となります。繰り返す咳嗽、喘鳴、息切れ、胸部圧迫感が典型的な症状です。これらが変動性を示し、夜間から早朝にかけて悪化する傾向があれば、喘息の可能性が高まるでしょう。
発作の頻度、季節性、誘因の有無を詳しく確認することで診断精度が向上します。薬剤師が服薬指導の場面で症状の変化や増悪パターンを聞き取ることは、治療効果の評価にも役立つでしょう。
呼吸機能検査
スパイロメトリーは喘息診断の客観的指標として不可欠な検査です。FEV1(1秒量)、FVC(努力肺活量)、PEF(ピークフロー)を測定し、気道閉塞の程度を評価します。
喘息に特徴的な可逆性は、β2刺激薬吸入後にFEV1が12%以上かつ200mL以上改善することで確認が可能です。
患者が自己管理に用いるピークフローメーターの活用指導も、薬剤師が担える業務の一つといえます。日々の測定値を記録することで、増悪の早期発見や治療効果の把握につなげることができるでしょう。
体外検査
アレルギー検査や炎症マーカーの測定は、喘息の病型把握や治療方針の決定に活用されます。血清総IgE値や特異的IgE抗体検査(RAST)により、アレルゲンの特定やアトピー素因の有無を確認できます。
呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)は、好酸球性気道炎症のマーカーであり、治療効果の判定やアドヒアランスの確認に有用です。
薬剤師はこれらの検査値を把握することで、薬物療法の適応判断や治療効果を理解しやすくなります。
他疾患との鑑別
喘息と類似した症状が現れる疾患との鑑別が診断において重要です。代表的な鑑別疾患として、COPD、咳喘息、心因性咳嗽、胃食道逆流症(GERD)があります。
特にCOPDは症状が重複することがあり、喫煙歴、発症年齢、症状の変動性などから総合的に判断されるでしょう。咳喘息は喘鳴を伴わない慢性咳嗽が特徴であり、典型的な喘息へ移行する可能性もあります。 薬剤師は患者背景や処方内容を確認することで、診断の妥当性や治療選択の適切性を評価する視点を持つことが望ましいでしょう。
薬剤師の関わり方
薬剤師が喘息患者に関わる場面は多岐にわたります。薬物療法の管理では、ICS、ICS/LABA配合剤、LAMA、SABA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、生物学的製剤など、各薬剤の特性と使い分けを理解しておく必要があるでしょう。
また、吸入手技の指導は薬剤師の重要な役割です。デバイスの種類によって操作方法が異なるため、患者ごとに適切な指導を行い、定期的に手技を確認することが求められます。アドヒアランスの確認も欠かせません。
症状がないときにICSを自己中断してしまう患者は少なくないため、継続治療の必要性を繰り返し説明することが大切です。発作時の対応についても、SABAの適切な使用方法や、改善しない場合の受診の目安を伝えておくことで、重症化の予防につながるでしょう。
まとめ
喘息は慢性の気道炎症を基盤とする疾患であり、早期からの適切な薬物管理が長期予後を左右します。薬剤師は病態生理と診断の基礎を理解することで、患者への説明や服薬支援の質を高めることができます。
吸入指導やアドヒアランス確認を通じて、患者が安定した喘息コントロールを維持できるよう支援していきましょう。
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