薬歴記載の基本と実践|薬剤師の臨床ツールとしての書き方
2025.12.11

薬歴は単なる記録ではありません。薬剤師が患者の薬物療法に貢献するための臨床ツールです。
この記事では、薬歴の目的からSOAP方式による記載法、日常業務で押さえておきたい書き方のコツまでを解説します。
目次
薬歴とは?
薬歴(薬剤服用歴)とは、患者に関する薬学的情報や指導内容を記録したものです。患者の安全確保や治療効果の最大化を目的としており、薬剤師が過去の処方内容や服薬状況を確認し、継続的に管理するために記載します。
また、薬歴の記載は調剤報酬上の「服薬管理指導料」の算定要件としても定められています。
薬歴が果たす役割とその重要性
薬歴は記録して終わりではなく、薬剤師が患者の治療に関わるうえで欠かせない臨床の基盤です。一人ひとりの情報を丁寧に積み重ねることで、より安全で質の高い管理が可能になります。
その役割は大きく2つに分けられます。
安全で適正な薬物療法の推進
アレルギー歴や相互作用、服薬コンプライアンスを薬歴に記録することで、重複投与や副作用を未然に防ぐことができます。「何を」「どのように服用しているか」を正確に把握することは、患者の安全を守る最前線の業務といえます。
患者ごとの治療経過の可視化
薬歴を継続的に記録することで、初回指導時と比べて症状や副作用の変化を把握し、次回以降の服薬指導に反映できます。
たとえば「前回眠気を訴えていた薬を減量した結果、改善した」など、経過が目に見える形で残すことが重要です。
薬歴に記載すること
厚生労働省は「服薬管理指導料」の算定要件の中で、薬歴に記載すべき事項を明確に定めています。以下のア〜サがその内容です。
ア:患者の基礎情報(氏名、生年月日、性別、被保険者証の記号番号、住所、必要に応じて緊急連絡先)
イ:処方及び調剤内容(処方した保険医療機関名、処方医氏名、処方日、処方内容、調剤日、処方内容に関する照会の内容等)
ウ:患者の体質(アレルギー歴、副作用歴等を含む)、薬学的管理に必要な患者の生活像及び後発医薬品の使用に関する患者の意向
エ:疾患に関する情報(既往歴、合併症及び他科受診において加療中の疾患に関するものを含む。
オ:併用薬(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品及び健康食品を含む。)等の状況及び服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況
カ:服薬状況(残薬の状況を含む。)
キ:患者の服薬中の体調の変化(副作用が疑われる症状など)及び患者又はその家族等からの相談事項の要点
ク:服薬指導の要点
ケ:手帳活用の有無(手帳を活用しなかった場合はその理由と患者への指導の有無)
コ:今後の継続的な薬学的管理及び指導の留意点
サ:指導した保険薬剤師の氏名 これらを記録することで、薬歴は単なるメモではなく、治療経過を追跡できる医療記録となります。
SOAP方式による薬歴の書き方
薬歴を整理する際に有効なのが「SOAP方式」です。
S(Subjective:主観的情報)
O(Objective:客観的情報)
A(Assessment:評価)
P(Plan:計画)
の4項目に分けて記録することで、思考過程が明確になります。
S:主観的情報
患者の訴えや自覚症状をそのまま記録します。
例:「薬を飲むと眠気がある」
曖昧な表現を避け、患者の言葉を尊重して書きましょう。
O:客観的情報
検査値、服薬状況、残薬数など事実にもとづくデータを記載します。
例:「指示通り朝食後に服用している」
A:評価
SとOをもとに薬剤師が行う分析。
例:「眠気は抗ヒスタミン薬の副作用の可能性が高い」
根拠をもって判断を記録します。
P:計画
Aの評価に基づき、今後の対応を明確に記します。
例:「服薬時間を夜に変更し、次回来局時に確認」
「いつ・誰が・何を行うか」を具体的に書くと共有しやすくなります。
記載時の注意点・コツとよくあるミス
薬歴は「誰が見ても状況を正しく理解できること」が最も重要です。以下のポイントを押さえることで、再現性が高く、臨床的に活用しやすい薬歴を作成できます。
簡潔かつ客観的に書く
長文よりも箇条書きといった、第三者が読んでも状況を理解できるよう事実と評価を分けて記載しましょう。
初回と再来で重点を変える
初回は既往歴・服薬歴・生活背景などの把握を中心に、再来では前回からの変化や副作用の有無に焦点を当てます。
電子薬歴のツールを活用する
テンプレートや単語登録を活用すると効率的です。ただし、コピペによる形式的な記録は避け、患者ごとに調整することが大切です。
まとめ|質の高い薬歴で薬剤師の役割を強化する
薬歴は、薬剤師が専門職として治療に関与するための臨床記録です。厚労省の定める記載項目を踏まえ、SOAP方式で論理的に整理することで、誰が見ても理解できる記録になります。一つひとつの薬歴が、患者の安全を守り、薬剤師の介入価値を高める第一歩です。「活かせる薬歴」を意識して日々の業務に取り組んでみましょう。
また、「ためとこ」には薬歴の書き方に関するコンテンツも誤用しております。ぜひご活用ください。
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