糖尿病の病態生理と分類 ― 薬剤師が押さえるべきポイント
2025.10.14

糖尿病は世界的な健康課題であり、日本でも患者数は増加の一途をたどっています。厚生労働省の調査では、糖尿病が強く疑われる人は約1,000万人、予備群を含めると約2,000万人。国民の5人に1人が糖尿病またはその予備軍に該当することになります。薬剤師には薬物療法の提供だけでなく、病態を理解したうえでの服薬指導や生活支援が求められるといえるでしょう。本記事では、糖尿病の基本的な病態と分類を整理します。知識を再確認し、日々の指導や対応に活かしましょう。
目次
糖尿病とは ― 定義と現状
糖尿病は「インスリンの分泌不足や作用不全により高血糖が続く代謝疾患」です。
WHOは「膵臓が十分なインスリンを産生できない、または産生されたインスリンを有効に利用できないことで生じる慢性疾患」、ADAは「インスリン分泌または作用の障害による高血糖を特徴とする疾患群」と定義しています。
厚生労働省の調査によると、現在、治療を受けている患者は550万人を超え、年間医療費は約1.2兆円に達しています。糖尿病の恐ろしさは、症状が乏しいまま進行し、網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こす点にあります。合併症が進行すれば、人工透析や失明など、患者のQOLは著しく低下します。
また、深刻な問題として糖尿病予備軍の存在があります。予備群の方は年間5~10%の割合で糖尿病へ移行するといわれていますが、生活習慣の改善で進行を防ぐことが可能です。そのため、薬剤師が早期介入し、受診勧奨や継続的な生活指導を行う意義は大きいといえます。
病態生理 ― 糖尿病が起こるしくみ
糖尿病の服薬指導において「なぜこの薬が必要なのか」患者さんに納得してもらうためには、病態メカニズムの理解が不可欠です。インスリン分泌不全やインスリン抵抗性が、血糖値にどのように影響し長期的にどのような合併症につながっていくのかを理解していれば、患者さんとのコミュニケーションがより深まり、治療継続への動機づけにもなります。
発症のメカニズム
糖尿病の本質は「インスリン分泌不全」と「インスリン抵抗性」のいずれか、あるいは両者の関与です。
- インスリン分泌不全:膵臓のβ細胞の働きが低下したり、細胞そのものが破壊されたりすることで生じる病態です。
- インスリン抵抗性:インスリンが分泌されているにもかかわらず、肝臓・筋肉・脂肪組織で十分な効果を発揮できない状態を指します。特に肥満、なかでも内臓脂肪の蓄積が大きく関与しており、脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインがインスリンの働きを妨げることが原因の一つと考えられています。
インスリンの作用が低下すると、まず肝臓では糖新生が抑えられずに空腹時血糖が上がり、グリコーゲン合成の低下によって食後高血糖も持続します。筋肉では糖の取り込みが減少し、高血糖がさらに続きます。脂肪組織では脂肪分解が促進されて遊離脂肪酸が増え、その結果インスリン抵抗性が悪化します。これらが互いに影響し合い、慢性的な高血糖という悪循環へとつながります。
合併症の発症機序
長期的な高血糖はAGEs(終末糖化産物)や活性酸素を増やし、血管や組織を傷つけます。その結果、細小血管障害(網膜症・腎症・神経障害)や大血管障害(心筋梗塞・脳梗塞)などの合併症を引き起こします。
薬剤師が合併症のリスクを理解し説明できることは、治療継続への動機づけにつながります。
糖尿病の分類
糖尿病は、原因や特徴により主に以下の4つに分類されます。
1型糖尿病
膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されない病態です。原因の大半は自己免疫によるβ細胞の破壊とされ、抗GAD抗体や抗IA-2抗体などの検査で診断されます。緩徐進行型と劇症型があり、治療にはインスリン補充が不可欠です。
2型糖尿病
日本で最も多く、遺伝的素因に加え、肥満・過食・運動不足などの生活習慣が要因となります。初期はインスリン抵抗性が中心ですが、進行に伴い分泌能も低下していきます。自覚症状が乏しく、気づかないうちに進行するため、定期的な血糖・HbA1cのチェックが重要です。
妊娠糖尿病
妊娠中に初めて指摘される糖代謝異常です。妊娠中はインスリンが効きにくくなるため発症します。母体では妊娠高血圧症候群、胎児では巨大児や新生児低血糖のリスクが高まります。出産後は多くが正常化しますが、将来的な2型糖尿病発症リスクが高まります。出産後は正常に戻ることが多いですが、将来2型糖尿病になりやすいため、継続的なフォローが必要です。
その他の特定の機序による糖尿病
MODY(若年発症成人型糖尿病)やミトコンドリア遺伝子異常、また慢性膵炎や膵癌による膵障害、内分泌疾患(クッシング症候群など)、あるいは薬剤(ステロイド、免疫抑制薬など)によっても発症します。薬剤師として特に留意すべきなのは、薬剤誘発性糖尿病です。服薬歴の確認を通じて、薬剤誘発性糖尿病の可能性を常に念頭に置く必要があります。
診断の視点 ― 薬剤師が理解すべき数値
糖尿病の診断基準(2024年版ガイドライン)は以下の通りです。
| 血糖値 | 空腹時≧126mg/dL以上 |
| 75gOGTT(ブドウ糖負荷試験)の2時間値≧200mg/dL | |
| 随時≧200mg/dL | |
| HbA1c | ≧6.5% |
別の日の再検査でもう一度基準を満たす、または糖尿病の典型的症状(口渇・多尿・体重減少)が認められる場合に、糖尿病と診断されます。
また、空腹時血糖値が110~125mg/dL、または75gOGTTの 2時間後の値が140~199mg/dLの状態は「境界型糖尿病(予備群)」とされ、この段階での生活指導が極めて重要です。生活習慣の改善によって糖尿病への進行を防げる可能性があります。
まとめ
糖尿病の病態を理解することは、薬剤師にとって服薬指導の根拠を支える基盤です。
病態に応じた指導は患者の納得を生み、アドヒアランス向上にも寄与します。新薬や治療戦略が進化する中でも、基本となる病態理解を常にアップデートし、患者一人ひとりに最適な支援を提供することが求められています。
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