コラム

喘息治療薬の種類と吸入指導|薬剤師が押さえておくべきポイント

喘息は慢性の気道炎症を基盤とする疾患であり、症状のコントロールには継続的な薬物療法が欠かせません。

薬剤師は吸入薬の選択や使用法、副作用管理に深く関わる立場にあります。

この記事では、喘息治療薬の種類と特徴、そして吸入指導のポイントについて、薬剤師が押さえておくべき内容を整理します。

喘息治療の基本方針

喘息治療の目標は、発作の予防と日常的な症状コントロールの維持にあります。

治療薬は大きく「長期管理薬(コントローラー)」と「発作治療薬(リリーバー)」に分類されます。長期管理薬は気道炎症を抑制し、発作を予防する目的で毎日使用する薬剤です。発作治療薬は急性症状を速やかに緩和するために用いられます。 薬剤師はそれぞれの薬剤の作用機序と使用タイミングを理解し、患者が正しく使い分けられるよう指導することが重要です。長期管理薬の継続使用が喘息コントロールの基盤となることを、患者に繰り返し伝える必要があるでしょう。

治療薬の種類と特徴

喘息治療薬は作用機序や剤形によって複数のカテゴリーに分けられます。各薬剤の特徴を理解することで、処方意図の把握や患者への適切な説明が可能になるでしょう。

ここでは主要な治療薬について解説します。

吸入ステロイド薬(ICS)

吸入ステロイド薬(ICS)は、喘息の長期管理における第一選択薬です。気道の慢性炎症を抑制し、気道過敏性の亢進を改善する作用があります。

効果発現には数日から数週間を要するため、即効性を期待する薬剤ではありません。主な副作用として、口腔カンジダ症や嗄声が知られています。

これらは吸入後のうがいにより予防できるため、薬剤師は吸入指導の際に口腔ケアの重要性を必ず伝えることが大切です。

症状が改善しても自己判断で中止しないよう、継続使用の意義を説明する必要があるでしょう。

β2刺激薬

β2刺激薬は気道平滑筋を弛緩させ、気道を拡張する作用を持ちます。

短時間作用性β2刺激薬(SABA)は発作時の第一選択薬であり、数分以内に効果が発現します。長時間作用性β2刺激薬(LABA)は作用持続時間が長く、ICSとの配合剤として維持療法に用いられるのが一般的です。

LABAは単独使用では喘息死のリスク増加が報告されているため、必ずICSと併用する必要があります。

副作用として動悸や手指振戦が現れることがあり、患者から相談を受けた際には医師に連絡するなど適切に対応しましょう。また、SABAの使用頻度増加は喘息コントロール悪化のサインであり、医師への受診勧奨が求められます。

抗ロイコトリエン薬(LTRA)

抗ロイコトリエン薬は経口薬として使用できる長期管理薬です。

ロイコトリエンによる気道収縮や炎症を抑制し、特にアレルギー性喘息やアスピリン喘息に有効とされています。ICSへの追加療法として、またはICSが使用困難な患者の代替選択肢として位置づけられています。

経口薬であるため吸入手技の問題がなく、服薬アドヒアランスが比較的得られやすい利点があります。一方で、効果発現には継続服用が必要であり、薬剤師は内服遵守の重要性を患者に伝えることが求められるでしょう。

鼻炎合併例では鼻症状の改善も期待できるため、併存疾患を考慮した服薬指導が可能です。

生物学的製剤

重症喘息に対しては、抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ、ベンラリズマブ)、抗IL-4/13受容体抗体(デュピルマブ)などの生物学的製剤が使用されます。

これらは既存治療でコントロール不十分な患者に適応となり、2型炎症の関与が高い症例で効果が期待できるでしょう。

投与は皮下注射で行われ、医療機関での投与または自己注射指導が必要です。副作用として注射部位反応やアナフィラキシーのリスクがあり、投与後の観察が重要になります。

薬剤師は患者への投与スケジュール管理や副作用モニタリング、自己注射手技の確認などに関わることが可能です。高額な薬剤であるため、医療費助成制度の情報提供も患者支援の一環となります。

その他の補助薬

テオフィリン徐放製剤は気管支拡張作用と抗炎症作用を持ち、追加療法として使用されることがあります。有効血中濃度域が狭く、中毒症状(悪心、頻脈、痙攣など)のリスクがあるため、血中濃度モニタリングが必要です。また、CYP1A2で代謝されるため、マクロライド系抗菌薬やキノロン系抗菌薬との相互作用に注意が求められます。

長時間作用性抗コリン薬(LAMA)は、ICS/LABAでコントロール不十分な場合の追加選択肢として位置づけられています。薬剤師は併用薬との相互作用チェックや、テオフィリン使用患者への血中濃度測定の必要性の説明を担うことが大切です。

吸入指導のポイント

吸入療法は喘息治療の中心であり、正しい吸入手技が治療効果を左右します。薬剤師による吸入指導は患者アウトカムの改善に直結する重要な業務です。

ここでは吸入器の種類、正しい手技、自己管理指導について解説します。

吸入器の種類と特徴

吸入器は大きくDPI(ドライパウダー吸入器)、pMDI(加圧噴霧式定量吸入器)、SMI(ソフトミスト吸入器)に分類されます。

DPIは患者自身の吸気力で薬剤を吸入するため、高齢者や重症発作時には吸気力が不足する可能性があり、患者の状態に応じた選択が求められるでしょう。

pMDIは噴霧と吸気のタイミング同調が必要であり、スペーサーの併用で同調の問題を軽減できます。

SMIは噴霧速度が遅く、吸気との同調が比較的容易である点が特徴です。

薬剤師は患者の年齢、吸気力、手指の巧緻性などを考慮し、適切な吸入器選択をサポートする役割を担います。

正しい吸入手技

正しい吸入手技の習得が治療効果を最大化するための鍵となります。基本的な手順として、十分な呼気の後にゆっくり深く吸入し、数秒間息を止めてから呼出するという流れがあります。

DPIでは素早く力強い吸入が、pMDIでは噴霧と同時にゆっくりとした吸入が求められるでしょう。

よくある誤使用として、吸入前の呼気不足、吸入速度の不適切さ、息止め時間の不足などがあります。

薬剤師は初回指導だけでなく、来局のたびに手技を確認し、必要に応じて再指導を行うことが重要です。実際にデモ機を用いて患者に実演してもらい、問題点を具体的に指摘する方法が効果的でしょう。

自己管理の指導

喘息の自己管理能力を高めることは、長期的なコントロール維持に不可欠です。発作日誌の記録により、症状パターンや増悪因子の把握が可能になります。

また、ピークフローメーターを用いた日々の測定は、客観的な気道状態の評価に役立つでしょう。ピークフロー値が自己最良値の80%未満に低下した場合は、増悪の兆候として早期対応が必要です。

薬剤師は測定方法の指導に加え、記録の見方や対応の目安についても説明することが求められます。喫煙やアレルゲン回避などの生活指導も、薬物療法と並行して行うことで治療効果の向上が期待できます。

薬剤師の関わり方

薬剤師は喘息治療において多角的な役割を担います。

処方監査では、薬剤の適正使用、用法用量の確認、相互作用チェックを行います。吸入指導では、患者に適した吸入器の選択支援、正しい手技の教育、定期的な手技確認が重要な業務です。副作用管理として、口腔カンジダ症や動悸などの症状を早期に発見し、対応策を提案することも求められるでしょう。

医師との連携も欠かせません。患者から聴取した症状の変化、SABAの使用頻度、アドヒアランスの状況などを医師にフィードバックすることで、治療の最適化に貢献できます。トレーシングレポートや疑義照会を活用し、チーム医療の一員として喘息管理に関わることが大切です。

まとめ

喘息治療では、適切な薬剤選択と正しい吸入指導が治療成功の鍵を握ります。薬剤師は各治療薬の特徴を理解し、患者一人ひとりに合わせた実践的な指導を行うことで、治療効果の最大化に貢献できるでしょう。

継続的な関わりを通じて、患者の喘息コントロール維持を支援していきましょう。

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