長期収載品の選定療養について 薬剤師向けに仕組みと対応を整理
2026.07.30

長期収載品の選定療養について、制度の大枠は分かっているつもりでも、患者から「先発品だといくら高くなりますか」と問われ、とっさに言葉へ詰まってしまった経験はないでしょうか。
金額が絡む質問だけに、あいまいに答えて後からトラブルになるのは避けたいですよね。
後発医薬品がある先発医薬品(長期収載品)を、医療上の必要性がないにもかかわらず患者が希望した場合、通常の自己負担とは別に「特別の料金」がかかることがあります。
とくに注意したいのが、2026年6月に特別の料金の計算方法が見直された点です。これまで先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1相当だった特別の料金が、2分の1相当へと引き上げられました。
この記事では、長期収載品の選定療養の対象となる薬剤や特別の料金の計算方法、薬局での判断手順、患者への伝え方などを詳しく解説します。
目次
総合病院門前の薬局で勤務中(7年目)。研修認定薬剤師、NR・サプリメントアドバイザーの資格を取得。 在宅や学校薬剤師など幅広く活動しています!
2児のママ薬剤師をしながら、医療ライターとしてさまざまな記事を執筆しています。
後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養とは
長期収載品の選定療養とは、後発医薬品がある先発医薬品(長期収載品)を、医療上の必要性がないにもかかわらず患者の希望などで選択した場合に、通常の自己負担とは別に「特別の料金」がかかる制度です。
この制度は、後発医薬品への切り替えを促進し、医療保険制度の持続可能性を高めることを目的として、2024年10月に開始されました。
ただし、先発医薬品を選択した場合でも、次のようなケースでは特別の料金はかかりません。
- 医療上の必要性から先発医薬品を使用する場合
- 後発医薬品の在庫状況などにより、後発医薬品の提供が困難な場合
患者からは「先発品にすると高くなる」と一括りに受け取られがちですが、実際には特別の料金が生じない場面も少なくありません。
この線引きを押さえておくと、患者から金額を問われたときにも落ち着いて答えられるでしょう。
対象となる長期収載品は「対象医薬品リスト」で確認する
長期収載品の選定療養では、後発医薬品があるかどうかだけで対象の有無を判断することはできません。
実際に特別の料金がかかるかどうかは、患者に薬剤を交付する時点で有効な、厚生労働省の「対象医薬品リスト」を確認して判断します。
対象の確認では、次のポイントを押さえておきましょう。
| 確認ポイント | 注意点 |
| 対象医薬品リストへの掲載 | 後発医薬品があっても、リストに掲載されていない品目は原則対象外 |
| リストの適用期間 | 交付時点で有効な最新のリストを確認する |
| 医薬品の規格・剤形 | 同じ成分でも規格や剤形によって対象の扱いが異なる場合がある |
直近では2026年6月1日以降の対象医薬品リストが更新されています。
同じ医薬品であっても、参照するリストの適用期間を誤ると、特別の料金がかからない患者に料金を案内してしまうおそれがあります。
対象品目は数が多いため、門前で頻用する医薬品については、対象の有無を確認できるよう手元にまとめておくと、日々の業務をスムーズに進められるでしょう。
「特別の料金」の仕組みと2026年6月からの計算
特別の料金は、通常の窓口負担とは別に、患者が全額を負担する保険外の費用です。
対象になるのは薬剤料の部分であり、調剤技術料や薬学管理料といったそのほかの費用が、この制度で増えるわけではありません。
計算の考え方を一度押さえておけば、薬価が違うお薬でも同じ手順で見積もれます。
特別の料金は「価格差の2分の1」(2026年6月〜)
2026年6月1日以降、特別の料金は先発医薬品と後発医薬品の価格差の2分の1相当へ引き上げられました。
比較の基準となる後発医薬品は、複数ある場合には最も薬価が高いものを用います。
基準となる薬価が高いほど価格差は小さくなるため、患者が負担する特別の料金も抑えられる計算です。
価格差の2分の1を差し引いた額が保険給付の対象となり、窓口負担の割合は従来どおり1〜3割で変わりません。
〈具体例〉先発医薬品の薬価が100円、最も薬価が高い後発医薬品が60円のお薬を、1日1錠・30日分で処方された場合に、特別の料金がいくらになるかを計算したものが下の表になります。
| ステップ | 計算 | 金額 |
| 先発品と後発品(最高薬価)の差額 | 100円 − 60円 | 40円 |
| 特別の料金(2026年6月〜/差額の1/2) | 40円 × 1/2 | 20円 |
| 30日・1日1錠あたりの特別の料金 | 20円 × 30錠 | 600円 |
| 消費税(10%)を加えた最終額 | 600円 × 1.1 | 660円 |
この例で患者が支払う特別の料金は、通常の窓口負担とは別に660円です。
価格差をそのまま口頭で伝えると実際の請求額とずれてしまうため、案内するときは消費税を含めた金額で示すとよいでしょう。
処方日数が長くなるほど上乗せ額は積み上がるので、長期処方ではとくに丁寧な説明が求められます。
参考:厚生労働省「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養における費用の計算方法について」(令和8年3月27日 事務連絡)
旧ルール(4分の1)との違いに注意
窓口対応で間違えやすいのが、旧ルールと現行ルールの取り違えです。
制度開始から2026年5月末までは価格差の4分の1相当だったため、当時の記事や資料には4分の1で書かれたものが数多く残っています。
先ほどの表の条件であれば、旧ルールでの特別の料金は1錠あたり10円、現行では20円と2倍の開きが生じます。
古い数値をそのまま案内すると患者との金額トラブルにつながりかねないため、出典の日付を確かめる習慣が欠かせません。
改定の前後をまたぐ時期は、参照している資料がいつ時点のものかを一度立ち止まって確かめると安心です。
薬局で選定療養を判断する流れ
薬局での判断は、処方箋の記載を確認するところから始まります。
2026年6年10月以降の処方箋には「変更不可(医療上必要)」欄と「患者希望」欄が設けられており、この2か所が判断の起点です。
記載だけで判断がつく場面と、薬局での聞き取りが必要な場面があるため、両者の切り分けを意識しておきましょう。
処方箋の2つの欄から確認する
薬剤師がまず確認するのは、処方箋の2つの欄に医師の記載があるかどうかです。
判断は、処方箋の記載によって次の3つに分かれます。
| 処方箋の記載 | 特別の料金 | 薬局での対応 |
| 「変更不可(医療上必要)」欄に記載と署名がある | かからない | 先発医薬品のまま調剤する |
| 「患者希望」欄に記載がある | かかる | 金額を伝えたうえで調剤する |
| どちらの欄にも記載がない | 患者の意思次第 | 後発医薬品でよいかを確認する |
いずれの場合も、あわせて確かめたいのが対象医薬品リストへの掲載と後発医薬品の在庫です。
リストに載っていない品目や、供給の事情で後発医薬品を出せない品目には、特別の料金はかかりません。
患者が先発医薬品を希望する場合は、金額を具体的に伝えたうえで最終的な意思を確認します。
同じ先発医薬品の調剤でも、医療上の必要性による処方か患者の希望による選択かで、費用の扱いは大きく変わる点に注意が必要です。
どの欄に記載があるかを最初に押さえておくと、その後の対応もスムーズに進むでしょう。
記載がない場合は薬局で希望を確認する
どちらの欄にも記載がないときは、薬局側で患者の意思を確かめる必要があります。
記載がないことを後発医薬品への同意と受け取ってしまうと、患者が望まない切り替えにつながりかねません。
一般名処方であっても、患者が銘柄を指定すれば選定療養の対象になり得るため、希望は丁寧に聞き取りましょう。
先発医薬品を希望する患者には、特別の料金がいくらかかるかを具体的に伝えたうえで、最終的な意思を確認してください。
選定療養の対象外となる具体的なケース
選定療養の対象から外れるのは、主に次の3つのケースです。
- 医療上の必要性が認められる場合
- その薬局で後発医薬品の提供が困難な場合
- 対象医薬品リストに掲載されていない品目
いずれも特別の料金はかかりませんが、判断するのが医師なのか薬局なのかは、ケースごとに異なります。
ここでは、窓口で迷いやすい上の2つについて、順に確認していきましょう。
医療上の必要性が認められる場合
医療上の必要性は、患者の希望ではなく治療上の理由にもとづく判断です。
疑義解釈では、次の4つが想定されるケースとして示されています。
- 先発医薬品と後発医薬品で、承認された効能・効果に差異がある場合
- 後発医薬品で副作用や相互作用、治療効果の差がみられた場合
- 学会のガイドラインで、後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合
- 剤形の違いにより、飲みにくい、一包化できないなど適切な服用が難しい場合
注意したいのは、味やにおいといった使用感の好みは、医療上の必要性には含まれない点です。
剤形上の理由については薬剤師の判断で先発医薬品を調剤することも想定されており、その場合は処方医への情報提供が欠かせません。
後発医薬品の提供が困難な場合
在庫の事情による対象外は、出荷停止や出荷調整の品目かどうかで決まるわけではありません。
判断の基準は、その薬局で現に後発医薬品を提供できるかどうかにあります。
供給が戻れば通常の取り扱いに戻るため、一時的な事情による例外だと捉えておきましょう。
患者への説明で伝えること
患者に不公平感や混乱を与えないためには、伝える順序が大切になります。
まず制度の趣旨、次に後発医薬品を選べること、最後に特別の料金が通常の負担とは別に生じることの順で説明していきましょう。
特別の料金は保険外の費用にあたるため、患者に説明し、同意を得たうえで徴収することが前提です。
金額を伝えないまま調剤を進めると、会計の場面でトラブルにつながる可能性があるため注意しましょう。
後発医薬品を選べることをどう伝えるか
最初に伝えたいのは、後発医薬品を選べば特別の料金はかからないという点です。
この制度は後発医薬品の使用を進めるための仕組みであり、先発医薬品が使えなくなるわけではありません。
制度の趣旨と選択肢が残ることをあわせて示すと、患者も落ち着いて判断できるようになります。
どちらを選ぶかは患者自身が決められると伝えると、不公平感を与えにくくなるでしょう。
負担額の見せ方
金額は、消費税を含めた実際の支払額で示します。
「1錠あたり」ではなく「この処方でいくら」と伝えると、患者も負担を判断しやすくなるでしょう。
〈説明例〉「先発品をご希望の場合は、お薬代のほかに◯◯円のご負担が加わります。後発品であれば、この分はかかりません」
領収書では選定療養の自己負担と消費税がほかの医療費と区分されるため、内訳を聞かれたときにも説明できます。
また、公費の医療費助成を受けている患者であっても、特別の料金は原則として助成の対象にならないことを理解しておきましょう。
希望が変わったときの対応
患者の希望は、説明の途中で変わることも少なくありません。
先発医薬品から後発医薬品へ変える場合は、その場で調剤内容を切り替え、特別の料金がかからないことを伝えます。
反対に、後発医薬品でよいと聞いていた患者が先発医薬品を希望し直したときは、追加の負担が生じる点をあらためて確認してください。
医療上の必要性や在庫の事情で保険給付とした場合は、レセプトの摘要欄に該当する理由を記載します。
どの時点で希望が確定したかを記録に残しておくと、後日の問い合わせにも同じ説明で対応できるでしょう。
まとめ
長期収載品の選定療養は、後発医薬品があるお薬を患者の希望で先発医薬品にしたときに、特別の料金がかかる仕組みです。
2024年10月の開始当初は価格差の4分の1相当でしたが、2026年6月1日からは2分の1相当へ引き上げられました。
窓口では対象医薬品リストで対象を確かめ、最も薬価が高い後発医薬品との差額から、消費税を含めた金額を伝えます。
一方、医療上の必要性が認められる場合や、後発医薬品を提供できない場合には、特別の料金はかかりません。
その見極めを支えるのが、処方箋の2つの欄の確認と、患者への聞き取りです。
制度は今後も改定される可能性があるため、最新の厚生労働省資料を確かめながら対応していきましょう。