コラム

カスタマーハラスメントは調剤拒否の理由になる?最新の厚労省通知で示された正当な調剤拒否事由を解説【2026】

令和8年7月8日付けで、厚生労働省から「薬剤師の調剤応需義務等について」の通知が出されました。

今回の通知は、単に「調剤を断れるか」を示したものではありません。カスタマーハラスメントへの対応、調剤応需義務の法的性質、薬を渡してはいけない場面まで整理しています。

この記事では、薬局薬剤師が現場で判断しやすいように、通知の要点を実務の流れに沿って解説します。

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薬剤師の調剤応需義務等について(令和8年7月8日付け厚労省通知)

令和8年7月8日付けの厚生労働省通知「薬剤師の調剤応需義務等について」は、調剤応需義務をめぐる判断を、現場の実情に合わせて整理した通知です。※1

「調剤応需義務」は薬剤師法第 21 条に規定されている、薬剤師が国に対して負担する 公法上の義務です。今回の通知ではそれを踏まえたうえで、カスタマーハラスメント(カスハラ)を含む信頼関係の問題や、薬剤の適正使用を確保できない場合の対応まで示しました。

まず全体像として、今回の通知で押さえたい論点は次の4つです。

  • 調剤を拒否できる正当な理由は、個々の事情を踏まえて総合的に判断すること。
  • 重要な考慮要素として、患者についての緊急対応の要否、調剤を求められた時間帯、患者との信頼関係が挙げられる
  • カスタマーハラスメントでは、行為の内容と信頼関係の喪失の有無を踏まえて判断すること
  • 調剤には応じても、薬剤の適正使用を確保できない場合は薬を渡せないこと

カスタマーハラスメント深刻化が背景

今回の通知が出された背景には、従来の解釈だけでは現場の判断が難しくなっていた事情があります。従来は、薬剤師不在、災害、疑義照会不能、医薬品の調達に時間を要する場合などが主な例として示されていました。※1

一方で近年は、患者や家族からの過度な要求、長時間の拘束、暴言、威嚇など、薬局でもカスタマーハラスメントへの対応が課題になっています。通知は、このような状況を踏まえ、安全な調剤と薬局運営を守るための判断枠組みを整理したものです。

過去通知より優先される解釈

通知では、過去に出された調剤応需義務に関する行政解釈との関係について、今後は基本的に今回の通知が妥当すると整理されています。※1

そのため、2026年時点で調剤応需義務を確認するときは、過去の通知の行政解釈だけで判断するのではなく、今回の厚労省通知を起点に考えるのが自然です。

※1 出典:厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について」(2026年7月9日閲覧)

通知理解に必要な調剤応需義務の前提

通知を読む前提として、調剤応需義務そのものの意味を押さえておきましょう。調剤応需義務は、薬剤師法第21条に基づく義務です。※1

大まかにいえば、調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあったとき、正当な理由がなければ拒否してはならないとする考え方です。

薬剤師法21条の読み方

薬剤師法第21条は、調剤に従事する薬剤師を対象にしています。つまり、薬局全体のサービス対応一般ではなく、処方箋に基づく調剤の求めにどう応じるかが中心です。

ここで重要なのは、「拒否できない」が絶対ではない点です。条文上も、正当な理由がある場合は例外として考えられます。今回の通知は、その正当な理由をどう判断するかを具体化しています。

※1 出典:e-Gov法令検索「薬剤師法」(2026年7月9日閲覧)

調剤応需義務とカスタマーハラスメント

今回の通知で読者の関心が最も高いのは、カスタマーハラスメントがあるときに調剤を拒否できるかどうかでしょう。通知は、カスタマーハラスメントがあれば直ちに拒否できる、とは整理していません。※1

まずカスタマーハラスメントに当たるかを見て、そのうえで、調剤の基礎となる患者との信頼関係が失われているかを判断する流れです。

社会通念を超える言動

通知では、職場におけるカスタマーハラスメントと同様の考え方を用いています。つまり、「顧客等の言動が社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境が害されるかどうか」を見る整理です。※1

薬局でいえば、大声での威嚇、繰り返される人格否定、長時間の拘束、執拗な電話連絡などが問題になり得ます。一方で、調剤内容や接遇について合理的に説明を求める行為は、拒否理由とは区別されます。

患者との信頼関係喪失

カスタマーハラスメントに該当する行為があっても、それだけで機械的に調剤拒否へ進むわけではありません。通知は、薬剤師による調剤の基礎となる患者との信頼関係が失われているかを別に見ています。

たとえば、調剤行為そのものと関係のないクレームが続き、警告や複数名での説得をしても改善しない場合は、信頼関係の喪失を基礎づける事情になり得ます。

※1 出典:厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について」(2026年7月9日閲覧)

カスタマーハラスメントを理由とした調剤拒否の事例

暴力や長時間拘束などの類型

通知では、調剤の求めの拒否が正当化される大きな判断要素になり得る患者行為として、いくつかの類型が示されています。※1

  • 身体的な暴力、物を投げる、机を叩く、大声で威嚇するなどの行為
  • 薬剤師への侮辱的な発言や人格否定的な発言が繰り返される場合
  • 土下座などの謝罪強要、数時間に及ぶ居座り、執拗な電話連絡
  • 調剤内容と関係のないクレームを繰り返し、説明後も不当に責め立てる行為
  • 明らかに犯罪行為に該当するような行為

これらはあくまで例示です。実際には、患者の病状の緊急性、行為の継続性、薬局側の説明や対応の経緯も含めて判断する必要があります。

調剤過誤や他患者への影響

カスタマーハラスメントが発生した場合は、その行為自体だけでなく、薬局業務への影響も考慮されます。

例えば、患者の執拗な要求や威圧的な言動によって薬剤師の集中力が低下し、調剤ミスを招くおそれがあります。また、薬局内での迷惑行為によって、他の患者の安全やプライバシー、安心して利用できる環境が損なわれることもあります。
通知は、こうした事情も正当な理由の判断で考慮し得るものとして整理しています。

関連して、薬局現場での対応を整理した記事として、薬剤師のカスタマーハラスメント対応の記事もぜひご覧ください。

※1 出典:厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について」(2026年7月9日閲覧)

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カスタマーハラスメント以外での調剤拒否の事例

カスタマーハラスメント以外にも、通知では調剤を拒否できる正当な理由が整理されています。ただし、いずれも一律に当てはめるのではなく、個々の事情を踏まえた総合判断が基本です。

判断では、患者の病状の深刻さ、調剤を求められた時間帯、薬局や薬剤師との信頼関係などが重要になります。

物理的に調剤できない

薬剤師が病気、近親者の不幸、冠婚葬祭などで不在の場合や、災害・事故により物理的に調剤できない場合は、正当な理由になり得ます。

ただし、単に忙しい、人手が少ない、対応に手間がかかるといった事情を、そのまま同じ扱いにするのは慎重であるべきです。

疑義が解消できない

処方箋の内容に疑義があり、処方医と連絡が取れず疑義が解消できない場合も、調剤の求めに応じられない理由になり得ます。疑義が残ったまま調剤すれば、患者の安全を損なうおそれがあるためです。※1

一方で、近隣の患者など、後で処方医に確認できる見込みがある場合は、処方箋を預かって後刻疑義照会する対応も考えられます。疑義照会の基本は、疑義照会の記事もご参考ください。

早急な調達が難しい

患者の病状から早急な薬剤交付が必要で、卸、系列店舗、近隣薬局、代替薬、疑義照会などを確認しても調達に時間を要する場合は、正当な理由になり得ます。その場合も、速やかに調剤可能な薬局を責任をもって紹介することが重要です。

ただし、薬局に備蓄がないことだけを理由に調剤を拒否することは認められないと整理されています。ここは現場で誤解しやすい点です。※1

流通管理制度に基づく拒否

流通管理が必要な薬剤で、処方医や薬局が事前登録リストに掲載されていない場合も、拒否が問題となる場面です。通知では、メチルフェニデート塩酸塩製剤などが例として挙げられています。

安全性を確保できない

電子処方箋の重複投薬等チェックでアラートが出た場合や、お薬手帳で重複投薬が疑われる場合も、疑義照会などを踏まえて安全性を確認する必要があります。安全性を確保できないまま調剤を進めることは避けなければなりません。

開局時間外の対応

開局時間外に緊急性のない処方箋について調剤を求められた場合は、翌開局時間内の来局を案内することができます。その際は、必要に応じて休日・夜間対応薬局を案内するなど、患者が適切に薬を受け取れるよう配慮することが重要です。

支払い意思が認められない

悪意ある未払いも、通知で整理された論点です。過去の未払いが継続していて、再度未払いが発生する可能性が極めて高い場合や、被保険者情報の提示を拒むなど支払い意思が明らかに認められない場合が想定されています。

ただし、生活困窮や一時的な所持金不足など、患者側にやむを得ない事情がある場合まで機械的に同じ扱いにするのは適切ではありません。緊急性が高く、薬剤を提供しないことが生命や身体に重大な影響を及ぼすおそれがある場合は、未払いの状況を踏まえながら慎重に対応します。

※1 出典:厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について」(2026年7月9日閲覧)

薬剤の適正使用を確保できない場合の対応

今回の通知では、調剤応需義務が認められる場合であっても、薬剤の適正使用を確保できないと判断される場合には、販売・授与の拒否が正当化され得ることが整理されました。※1

判断の中心は、薬剤の適正使用を確保できるかです。必要な情報提供や服薬指導ができず、薬剤の安全な使用を担保できないときは、薬を渡せない場面が出てきます。

患者情報を確認できない

患者が年齢、アレルギー情報、併用薬、他の医薬品の使用状況などを一切伝えず、薬剤師の聞き取りにも応じない場合は、適正使用を確保できない可能性があります。

このような場合、調剤応需義務だけを見て「処方箋があるから必ず渡す」と考えるのは危険です。薬剤の使用による保健衛生上の危害を防ぐ観点から、薬剤提供の可否を別に判断します。

服薬指導を受けてもらえない

患者が必要な情報提供や服薬指導を拒む場合も、薬を渡せない場面になり得ます。薬剤師法や薬機法では、調剤した薬剤の適正使用のために必要な情報提供や指導が求められています。※2※3

もちろん、患者が急いでいる、説明を簡潔にしてほしいと希望するだけで、直ちに薬を渡せないわけではありません。必要な指導そのものを拒み、適正使用を確保できないと判断されるかがポイントです。服薬指導の考え方は、服薬指導の記事もご参考ください。

重複投薬リスクが残る

電子処方箋などで過去の薬剤情報を確認する同意が得られず、聞き取りをしてもなお重複投薬などのリスクを排除できない場合も、薬剤提供を控える判断があり得ます。

この場面で大切なのは、患者に不利益を与えるために渡さないのではなく、薬剤の安全性と有効性を確保するために判断する点です。調剤応需義務の話と、薬剤提供の禁止・拒否の話を混同しないようにしましょう。

※1 出典:厚生労働省「薬剤師の調剤応需義務等について」(2026年7月9日閲覧)
※2 出典:e-Gov法令検索「薬剤師法」(2026年7月9日閲覧)
※3 出典:e-Gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(2026年7月9日閲覧)

調剤応需義務で迷うときの説明と記録

調剤を拒否できるか、薬を渡してよいかで迷う場面では、結論だけでなく、説明、紹介、記録が重要です。後から振り返ったときに、患者安全と薬局内の安全を両立しようとした経過が分かるようにしておきます。

通知も、やむを得ず断る場合には、理由を説明し、適切な調剤が受けられるよう措置することを求めています。

理由説明と代替薬局の案内

やむを得ず調剤を断る場合は、「対応できません」だけで終わらせず、なぜその場で調剤できないのかを説明します。在庫や調達の問題であれば、調達見込み、代替薬の可能性、疑義照会の必要性などを整理して伝えるとよいでしょう。

早急な交付が必要なのに自局で調達に時間を要する場合は、速やかに調剤可能な薬局を紹介します。開局時間外で緊急性がない場合も、地域の休日夜間対応薬局など、次につながる情報を案内できると安心です。

記録と複数名での対応

カスタマーハラスメント、未払い、疑義照会不能、情報提供拒否などは、事実経過を記録しておくことが大切です。日時、患者の言動、薬局側の説明、紹介先、処方医や関係機関への連絡内容を残します。

特にカスタマーハラスメントでは、複数名で対応したか、警告や説明を行ったか、行為が継続・改善したかが、信頼関係喪失の判断材料になります。スタッフ一人で抱え込まない体制づくりも重要です。

処方医や行政との連携

患者の背景に精神疾患などが疑われる場合は、通知でも医療機関や行政等との適切な確認・連携が必要になり得るとされています。安全確保と差別的な対応の回避を両立する視点が欠かせません。

調剤応需義務の判断は、現場だけで完結しないこともあります。処方医、薬局内の管理者、地域の関係機関と連携しながら、患者に必要な医療が途切れないようにすることが大切です。

法律や通知の読み込みだけでなく、服薬指導、患者対応、カスタマーハラスメント対応などの実務知識を継続的に学ぶことも、判断の土台になります。ためとこでは、薬剤師の実務に役立つ学習コンテンツを確認できます。日々の学びを現場対応に生かしてみてはいかがでしょうか。

よくある質問

薬局に在庫がないだけで調剤を断れますか?

在庫がないことだけを理由に、直ちに調剤を拒否することは認められないと整理されています。卸、系列店舗、近隣薬局、代替薬、疑義照会などを確認し、患者に理由を説明することが先です。

ただし、早急な薬剤交付が必要で、自局では調達に時間を要する場合は、速やかに調剤可能な薬局を責任をもって紹介する対応が求められます。

カスタマーハラスメントがある患者の処方箋は断れますか?

カスタマーハラスメントに該当する行為があり、調剤の基礎となる信頼関係が失われ、適切な医療提供が困難になった場合は、調剤の求めを拒否できる正当な理由になり得ます。

ただし、調剤内容への合理的な指摘や説明を求める行為は、当然ながら拒否理由にはなりません。行為の内容、継続性、警告や説明の経過、患者の緊急性を総合的に判断します。

調剤しても薬を渡せない場合はありますか?

あります。調剤応需義務とは別に、薬機法上、薬剤の適正使用を確保できない場合は、薬剤を販売・授与してはならない場面があります。

たとえば、患者情報の提供を一切拒む場合、必要な服薬指導を受けてもらえない場合、重複投薬リスクを排除できない場合などです。調剤をすることと、薬を安全に渡せることは分けて考えます。

まとめ

令和8年7月8日付けの厚労省通知「薬剤師の調剤応需義務等について」は、調剤応需義務を現場でどう判断するかを整理した通知です。

調剤応需義務は、薬剤師が国に対して負う公法上の義務です。そのうえで、カスタマーハラスメント、疑義照会不能、早急な調達困難、流通管理、悪意ある未払いなどが、正当な理由の判断対象になります。

また、調剤には応じても、薬剤の適正使用を確保できない場合は薬を渡せないことがあります。迷ったときは、通知を根拠に、患者への説明、代替薬局の案内、記録、処方医や行政との連携を丁寧に行いましょう。

た め と こ
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