「薬薬連携」とは?|病院薬剤師と薬局薬剤師の情報共有と現場でできること
2026.07.07

退院直後の患者が来局した際、「入院前と比べて薬が大きく変わっているけれど、手元の情報だけでは理由がわからない」と焦った経験がある薬剤師の方もいるのではないでしょうか。
薬薬連携(やくやくれんけい)という言葉を聞くと、熱心なベテランや管理薬剤師だけがする高度な業務のように感じるかもしれません。しかし、実は普段のカウンター越しでのちょっとした気づきこそが、連携のスタートになります。
この記事では、薬薬連携の全体像から、明日から実践できる具体的な一歩までをわかりやすく解説します。
目次
薬薬連携とは|現状と課題
薬薬連携は、調剤薬局では当たり前になりつつある必須の機能です。ここでは、薬薬連携の言葉の正しい定義と、なぜ現場での連携が叫ばれているのか、その背景にある医療構造の変化を見ていきましょう。
薬薬連携の基本定義
薬薬連携とは、患者が入院中から退院後に至るまで、安全で継続的な薬物療法を受けられるよう、病院(または診療所)の薬剤師と、保険薬局の薬剤師が患者情報を共有し、協力し合う取り組みのことです。
具体的に共有される主な内容には、以下のような項目があげられます。
- 入院前に服用していた薬剤
- アレルギー・副作用歴
- 入院中に追加・変更・中止となった薬剤とその経緯
- 一般用医薬品(OTC)や健康食品の使用状況
- 日常的な薬の服用状況(アドヒアランス)
情報を共有することで、次回の診療や患者への指導に役立てることができます。
出典:高知県薬剤師会|薬薬連携
連携が重視されている理由
薬薬連携が必要になった背景にある最大の理由は、「高齢化による多剤併用」と「在院日数の短縮」です。
かつては病院の中で完結していた薬の微調整が、現在は患者が早期に退院するため、地域の薬局に委ねられるようになりました。
薬局薬剤師が入院中の治療経過や処方変更の理由を正確に把握できれば、在宅療養に向けた適切な服薬指導が可能になります。
一方で病院薬剤師も、入院前の普段の服薬状況や他科受診の有無を知ることで、入院の原因分析やより安全な治療方針を立てられます。
双方向の情報共有は患者の安全を守るものであり、現在の診療報酬においても高く評価されているものです。
薬薬連携で共有される情報
薬薬連携において、病院側と薬局側が具体的にどのような情報を渡し合っているのかを整理しました。
【病院と薬局で共有される情報】
| 病院から薬局へ伝える情報 | 薬局から病院へ伝える情報 |
| ・入院中のアドヒアランス状況 ・処方変更の経過と理由 ・調剤方法と投与経路 ・最新の検査値データ ・入院時の持参薬の転帰 ・入院中に判明した副作用・アレルギー歴 ・入院中の薬学的管理・支援に関する経過 ・薬局薬剤師への退院後の薬学的管理・支援のフォローアップ依頼内容 | ・受診中の医療機関、診療科などに関する情報 ・現在服用中の薬剤の一覧 ・患者の服薬状況(アドヒアランスおよび残薬) ・併用薬剤(要指導・一般用医薬品、医薬部外品、いわゆる健康食品を含む)の情報 ・患者の主観的な訴えや生活環境 |
薬局側が持っている残薬数やサプリメントの併用状況といった生活情報は、病院薬剤師にとっては必要で欲しいデータです。
薬局薬剤師は決して、病院から指示を受ける存在ではありません。地域の暮らしを見守る情報提供の立派な主役なのです。
出典:日本病院薬剤師会|薬剤管理サマリー(令和5年度改訂版)
出典:厚生労働省|患者の服薬状況等に係る情報提供書(別紙様式1-1)/入院前の患者の服薬状況等に係る情報提供書(別紙様式1-2)
薬薬連携が行われる主な場面
薬薬連携と聞くと特別なイメージを持ちがちですが、実際には主に以下のような場面で発生します。自身の普段の業務を思い浮かべながら確認してみましょう。
場面①|入退院時(情報の入口と出口)
もっとも情報が大きく動くのが、入院が決まったタイミング(入口)と、退院して地域に戻るタイミング(出口)です。
【入退院時に共有される情報】
| 入院時 | 退院時 | |
| タイミング | 患者に入院を告げられたとき | 退院時薬剤情報提供書持参時 |
| 共有される情報 | ・受診中の医療機関に関する情報 ・現在服用中の薬剤 ・患者の服薬状況(アドヒアランスおよび残薬) ・併用薬剤(健康食品を含む)の情報 | ・入院中のアドヒアランス状況 ・処方変更の経過と理由 ・最新の検査値データ ・入院中の薬学的管理・支援に関する経過 ・今後のフォローアップ依頼 |
入院前の情報提供は、病院側でする持参薬鑑別の労力を軽減できます。
退院後にサマリーを受け取った際は、最初は処方変更の理由の欄だけでも目を通すことから始めてみましょう。
場面②|外来がん治療
外来で抗がん剤治療を受ける患者さんの適切な薬物療法と安全性を確保するためには、薬局薬剤師と病院薬剤師の連携が欠かせません。
必ずしも抗がん剤治療に関する高度な専門知識が必要なわけではありません。治療スケジュールを確認し、「今日は治療から〇日目なので、そろそろ吐き気が出やすい時期だな」「吐き気止めの頓服は足りているだろうか」といった視点で、副作用のモニタリングを行うことができます。
また、服薬状況や副作用、患者さんの困りごとなどで気になる点があれば、薬局薬剤師から病院薬剤部へ情報提供を行うことで、その情報を主治医へ共有してもらうことができます。その結果、次回の診察時に処方や支持療法の見直しなど、治療への反映が期待できます。
場面③|在宅医療への移行・療養期
退院後に在宅医療へ移行した場合、自宅での服薬の様子を主治医に伝える主役は薬局薬剤師になります。
特にがん性疼痛などで処方される麻薬について、「ご家族が本当に正しく管理・使用できているか」「残薬が部屋に放置されていないか」といった物理的な実態の共有が求められます。
出典:日本病院薬剤師会|薬剤管理サマリー(令和5年度改訂版)
出典:厚生労働省|患者の服薬状況等に係る情報提供書(別紙様式1-1)/入院前の患者の服薬状況等に係る情報提供書(別紙様式1-2)
薬薬連携の主な手段:トレーシングレポートと疑義照会
実際に動こうとしたとき、迷いやすいのが、電話(疑義照会)にするか、書面(トレーシングレポート)にするかという手段の選択です。この2つには明確な使い分けのルールがあります。
判断基準は緊急性があるか、ないか
迷ったときの判断基準は、「目の前の薬を、今日そのまま患者に渡して安全かどうか」です。
- 安全ではない(緊急性が高い)場合⇒ 疑義照会:併用禁忌の薬が出ている、腎機能に対して明らかに過大な用量が処方されているなど
- 今日お渡ししても安全(緊急性が低い)場合⇒ トレーシングレポート:残薬が少しずつ溜まっている、市販の胃薬を常用している、血圧がやや高めに推移しているなど
安全ではない場合は、調剤をストップし、医師へ疑義照会します。渡しても安全な場合は、調剤・お渡しを完了させ、後日トレーシングレポートにて処方医や病院薬剤部へ情報を提供します。
トレーシングレポート(服薬情報提供書)の役割と書くべきこと
トレーシングレポートとは、緊急性は低いものの、今後の診療や処方設計に役立つ情報を伝えるための文書です。
記載する際の基本構成は、以下の4ステップを意識するとスムーズにまとまります。
- 患者の訴え(例:昼の薬をよく飲み忘れてしまう)
- 客観的状況(例:シートを確認したところ、昼用のみ14日分残薬あり)
- 薬剤師の評価(例:日中は独居のため管理が難しく、コンプライアンスが低下している)
- 処方医への提案(例:可能であれば、朝夕の2回処方への変更を検討してください)
トレーシングレポート(服薬情報提供書)については、以下の記事で説明しています。あわせてご覧ください。
▶トレーシングレポートの書き方・記入例|書く目的と医師に伝わるコツ
疑義照会の具体的な手順については、以下の記事で説明しています。あわせてご覧ください。
薬薬連携に関わる主な診療報酬・加算
薬薬連携は患者のための善意の行動であると同時に、国が診療報酬という形で評価している業務です。病院側も点数を算定して取り組んでいるため、「忙しい病院に連絡したら迷惑にならないか」と過度に萎縮する必要はありません。
薬局側が算定できる主な評価(服薬情報等提供料など)
薬局薬剤師が情報提供や退院時の連携をした場合に算定できる評価項目は、以下のとおりです。
- 服薬情報等提供料:トレーシングレポートなどで、患者の服薬状況や残薬などの重要な情報を処方医へ文書で提供した際に算定できる、連携の基本となる点数です。
- 在宅移行初期管理料:退院して在宅医療へ移行する患者に対し、退院時のサマリーなどをもとに病院と連携し、初期の服薬管理をした際に評価されます。
- 退院時共同指導料:患者の退院時カンファレンスに病院へ赴く、あるいはビデオ通話などで参加し、病院の医師や薬剤師らと共同で服薬指導をした際の評価です
レポートを1枚書くことは、患者の利益になるだけでなく、店舗の実績に貢献する一歩になります。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定について
出典:厚生労働省|調剤報酬点数表に関する事項
病院側が算定できる主な評価
一方の病院側が算定できる主な評価項目は、以下のとおりです。
- 連携充実加算:主に外来がん化学療法において、病院側が治療計画を地域の薬局に公開し、薬局からの相談や副作用報告を受ける体制を整えている場合に算定されます。
- 退院時薬剤情報管理指導料:病院薬剤師が、退院時の処方変更の理由や入院中の服薬状況などをまとめた退院時薬剤情報提供書を作成し、患者や薬局へ情報提供した際の評価です。
- 退院時共同指導料:薬局と同じく、患者が地域へ戻るにあたり、地域の薬局薬剤師などと共同で指導した際に、病院にも算定される点数です。
お互い医療のプロフェッショナルとして、対等な立場で情報を繋いでいきましょう。
薬局薬剤師が現場でできる薬薬連携の一歩
全体像と仕組みが理解できたところで、「明日からの業務で、具体的に何をすればいいのか」を整理します。最初から完璧を目指す必要はありません。無理のないステップから始めてみましょう。
現場でできる3つのステップ
以下の3つを意識するだけで、あなたの薬局の薬薬連携は確実に動き出します。
- お薬手帳の「入院前のページ」を見る:退院直後の患者が来たら、今日の処方箋だけでなく、お薬手帳の「数カ月前のページ」と見比べてみてください。処方意図を読み解くヒントが隠れています。
- 患者の雑談を薬歴に残す:「この薬、大きくて飲めなくて」といった話を、薬歴の隅にトレーシングレポート候補としてメモする習慣をつけましょう。
- 基幹病院のホームページを覗いてみる:地域の総合病院のホームページにある「医療関係者の方へ」というコーナーを検索してみましょう。連携のための専用プロトコルや様式が置かれていることがあります。
少しずつでも進むつもりで、まずはやってみましょう。
連携に自信を持つための継続した学び
気づいた情報を医師や病院へ伝えようとしたとき、最後にブレーキをかけるのは「自分の薬学的知識は、合っているだろうか」という不安です。
忙しい日々の通常業務に追われる中で、不安を払拭し、自信を持って連携に臨むための知識をアップデートし続ける手段としておすすめなのが、薬剤師のための生涯学習支援アプリ『ためとこ』です。スキマ時間を活用して最新の薬物療法や専門知識をインプットし続けることが、結果として「患者の変化に気づける目」を養い、あなたの連携力を根底から支えてくれます。
まとめ|特別なことから日常の気づきへ。薬薬連携の一歩を踏み出そう
薬薬連携という硬い言葉に、過度に身構える必要はありません。
高度な専門知識よりも先に必要なのは、普段カウンター越しに、患者の表情や言葉から引き出している実際の声です。明日、患者さんのお薬手帳を開くその手が、患者の声を病院へ橋渡しする、確かな連携の第一歩になります。