薬剤師が糖尿病治療に関わる上でのポイント
2025.12.08

糖尿病の患者数は増加傾向にあり、治療において薬剤師が果たす役割はますます重要になっています。薬物療法の専門家としてだけでなく、患者の生活に寄り添い、継続的な治療を支えるパートナーとしての活躍が期待されています。
この記事では、糖尿病治療に関わる薬剤師が押さえるべき実務的なポイントを詳しく解説します。
目次
糖尿病治療における薬剤師の役割
糖尿病は「治す」病気ではなく「コントロールする」病気です。血糖値を適正範囲に保ちながら、網膜症・腎症・神経障害といった合併症の発症・進行を防ぐことが治療の目標となります。そのため患者は、生涯にわたって服薬・食事管理・運動習慣を継続する必要があり、医療者による長期的な支援が不可欠です。
薬剤師は医師・看護師・管理栄養士と連携しながら、服薬管理と生活支援を担います。調剤薬局の薬剤師は、主に処方薬の適切な服用方法・生活習慣を指導し、病院薬剤師は入院中の血糖管理や薬剤調整に関与します。立場ごとに異なる関わり方がありますが、共通するのは「患者の生活の場」に非常に近い医療職として機能することです。 患者の「理解・納得・継続」を支えることが、薬剤師の核心的な役割といえます。薬の効果や副作用を正しく伝えるだけでなく、患者が治療を自分ごととして受け入れ、日常生活の中で無理なく実践できるよう後押しすることが求められます。
治療の流れと適切な介入のタイミング
糖尿病治療は、病期や病態によって必要な支援内容が変化します。薬剤師は、患者がどの段階にあるかを見極め、適切なタイミングで介入することが重要です。
治療初期(薬物導入期)では、患者が糖尿病という診断を受け入れ、服薬や自己管理の重要性を理解する段階です。薬剤師は、薬の作用機序や服用方法をわかりやすく説明し、低血糖症状への対処法など、安全に治療を開始できるよう支援します。
安定期に入ると、服薬アドヒアランスの維持と生活リズムの定着が課題となります。患者が薬を飲み忘れたり、自己判断で服薬を中断したりしないよう声かけを行いましょう。血糖コントロールが安定していても、定期的なフォローアップが必要です。
増悪期・合併症期では、血糖値の悪化や腎機能低下、心血管疾患などの合併症が出現する可能性があります。薬剤調整や副作用モニタリングが重要となり、他職種との連携を強化し、患者の状態変化を見逃さない体制が求められます。
各フェーズごとに異なる薬剤師の支援ポイントを理解し、患者の病態やライフステージに応じて柔軟に対応することが求められます。
薬物療法支援の実務ポイント
糖尿病治療では、経口薬と注射薬でそれぞれ異なる服薬指導のポイントがあります。経口薬では服用タイミングや食事との関係、注射薬では注射手技の確認や保管方法の指導が重要です。
多剤併用や併存疾患への対応も薬剤師の重要な役割です。糖尿病患者は、高血圧や脂質異常症を合併し、複数の薬を服用していることも少なくありません。腎機能障害がある場合は、薬剤の減量や変更が必要となるケースがあるため、eGFRなどの検査値を確認し、必要に応じて医師に処方提案を行います。
副作用や低血糖のリスクマネジメントは、安全な治療継続のために欠かせません。特にSU薬やインスリンを使用している患者では、低血糖症状の説明と対処法の指導を徹底します。SGLT2阻害薬では脱水や尿路感染のリスク、GLP-1受容体作動薬では消化器症状への配慮が必要です。 ポリファーマシーの問題にも注意が必要です。高齢者では服薬管理が複雑化し、アドヒアランスの低下や有害事象のリスクが高まります。服薬カレンダーや一包化などの工夫を提案し、患者が無理なく服薬を管理できる方法を一緒に考えましょう。
患者の行動変容を促すコミュニケーション
糖尿病治療では、患者自身の行動変容が治療成果を左右します。薬剤師は、患者に「やる気がない」のではなく「できない理由」があることを理解し、その背景を探る対話を心がけます。
HbA1cなどの検査値の改善はもちろん重要ですが、それだけを目標にすると患者のモチベーションが続きにくい場合があります。「旅行に行けるようになった」「体のだるさがなくなった」など、治療によって生活の質(QOL)がどのように向上したかを患者と共有し、治療のメリットを実感してもらうことが大切です。
SMBG(自己血糖測定)や体重・食事記録を使った振り返り支援も有効です。患者が記録した数値を一緒に確認し、生活習慣との関連を見出すことで、具体的な改善行動につなげることができます。 モチベーションを保つ声かけと信頼関係の築き方も重要です。小さな成功体験を認め、できていることを評価する姿勢が、患者の継続意欲を支えます。患者と共に歩む伴走者として寄り添う姿勢が求められます。
チーム医療・地域連携の実践
糖尿病治療は、単独の医療機関で完結するものではありません。医療機関・薬局・訪問看護・介護職が連携し、地域全体で患者を支える体制が必要です。
情報共有の手段として、カルテ・お薬手帳・ICTツールを活用します。特にお薬手帳は、患者が受診する複数の医療機関をつなぐ重要なツールです。最近では、電子版お薬手帳やオンライン服薬指導システムなど、デジタル技術を活用した連携も進んでいます。
地域連携パスや糖尿病療養指導士(CDE)との協働も効果的です。糖尿病地域連携パスを用いることで、病院と診療所、薬局が一貫した治療方針のもとで患者をサポートできます。 継続的な支援を可能にする「つながり」の仕組みづくりが、地域における薬剤師の重要な役割です。信頼関係を築き、患者の状態変化を早期に察知して、必要な介入が行える体制を整えましょう。
最新の治療動向と薬剤師の学び直し
糖尿病治療は日々進化しており、新規薬剤や治療ガイドラインの改訂に対応する必要があります。SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、血糖降下作用に加えて心血管保護作用や体重減少効果が注目されており、適応や使い分けについての理解が求められます。
治療ガイドラインは定期的に改訂されており、最新のエビデンスに基づいた推奨事項を把握することが重要です。日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン」などを参照し、標準的な治療方針を理解しましょう。
患者教育資材やデジタルツールの活用も進んでいます。服薬管理アプリや血糖測定データを自動で記録するデバイスなど、テクノロジーを活用した支援方法を知ることで、患者指導の幅が広がるでしょう。 また、生涯学習や研修への積極的な参加が、治療支援の力を高めます。糖尿病療養指導士の資格取得や、学会・研修会への参加を通じて、最新の知識と実践的なスキルを磨き続けることが、質の高い薬剤師業務につながります。
まとめ
糖尿病治療は、薬剤師の継続的関与が成果を左右する領域です。薬の説明にとどまらず、患者の「生活」と「心」に寄り添う姿勢が重要であり、治療を継続するための具体的な支援を提供することが求められます。 また、チーム医療の一員として、地域全体で支える視点を持つことも必要です。医師や看護師、管理栄養士などと連携し、情報を共有しながら、患者が安心して治療を続けられる環境を整えましょう。
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