若年層に広がる市販薬オーバードーズ問題|薬剤師が果たすべき役割とは
2025.12.02

近年、10代から20代の若者の間で「市販薬のオーバードーズ」が急増しています。SNSの情報や容易な入手環境から、安易に薬に頼るケースが目立ち、社会全体で深刻な問題となっています。 薬剤師は販売現場で異変に気づける立場として、社会的なゲートキーパーの役割を果たすことを求められています。この記事では、オーバードーズの実態と背景、薬剤師が果たすべき役割などを解説します。
目次
オーバードーズとは|その定義と現状
オーバードーズとは、治療目的を超えて薬を過剰に服用する行為を指します。自殺企図や気分の高揚を目的とするケースも多く、違法薬物ではなく市販薬の乱用が深刻な問題となっています。
代表的な市販薬には、咳止め薬(デキストロメトルファンを含む)、鎮痛薬、睡眠改善薬などがあります。これらはドラッグストアなどで容易に入手できるため、乱用や依存に発展するリスクが高まっています。
特に10代後半から20代前半の若者に多く見られ、SNSで服用体験が共有される傾向もあります。背景には、いじめや家庭不和、孤独など、精神的なつらさや孤立感が関係しているケースが少なくありません。近年では、若い女性に特に多いことも特徴です。
なぜ若年層に広がっているのか
オーバードーズが若者に広がる背景には、「手軽」「合法」という誤った認識があります。市販薬は医師の処方が不要で、誰でも簡単に手に入るため、心理的なハードルが低いのです。
さらにSNSでは「眠れた」「気分が楽になる」といった服用体験が拡散され、危険な情報が若年層に伝わりやすい環境ができています。実際に、薬の組み合わせを紹介する投稿も見られ、模倣的に試すケースが少なくありません。
こうした背景には、孤独感やストレスなどの精神的問題が潜んでおり、心のケアを求める手段として薬に頼ってしまう若者もいます。薬剤師は、このような社会的・心理的要因を理解したうえで、異変に早く気づく視点を持つことが求められます。
デキストロメトロファン(DXM)のODですね咳止めです!解離性の幻覚が見えますよ。オレはこれ1000mg飲んで自分の体内を旅行しました。時間軸の感覚とかおかしくなります。独特な世界観があり(個人差あり)とてもおもしろいです。
薬機法改正と行政の取り組み
市販薬による乱用問題の拡大を受け、厚生労働省は販売現場での対策を強化しています。令和5年の薬機法改正では、「濫用等のおそれのある医薬品」が新たに指定され、販売記録の保存や販売拒否の判断が可能になりました。これにより、薬剤師や登録販売者が乱用防止の最前線で役割を果たす体制が整えられています。
現行の指定成分は以下の6つです。
・エフェドリン
・コデイン
・ジヒドロコデイン
・メチルエフェドリン
・プソイドエフェドリン
・ブロモバレリル尿素
これらはいずれも乱用や依存のリスクが高く、複数店舗を回って購入する行為が問題視されてきました。
一方で、デキストロメトルファン(主にメジコンなどの成分) は、令和5年の薬機法改正時点ではこの規制対象には含まれていません。しかし、過剰摂取による幻覚や意識障害の報告が相次いでおり、乱用実態を踏まえて次回改正で指定候補に挙がっている成分です。「法の網をかいくぐる乱用成分」として社会的にも注目されています。 現場では行政の取り組みに加え、店舗独自の工夫も進んでいます。たとえば東京都新宿区のドラッグストアでは、市販薬の空箱を陳列し万引きを防止するなど、販売環境の改善を図る動きが広がっています。薬剤師はこうした制度と現場対策を理解し、販売時に適切な判断ができるよう備えることが重要です。
薬剤師に求められる対応とサインの見抜き方
オーバードーズの防止には、薬剤師が現場で「異変に気づく力」と「適切な対処法」を身につけておくことが欠かせません。販売時のわずかな違和感を見逃さず、早期に行動できるかが被害拡大を防ぐ鍵となります。
特に注意したいのは、短期間に同じ薬を何度も購入する、購入理由があいまいで明確に答えられない、複数店舗を回って同じ薬を求めているといった行動です。こうした購入パターンが見られた際には、乱用の可能性を念頭に置き、冷静に対応する必要があります。
対処法としては、まず穏やかに声をかけ、使用目的を丁寧に確認すること。相手を責める口調ではなく、健康や安全を気遣う姿勢で話しかけることが大切です。その上で、必要に応じて販売を見送る判断や店舗責任者への報告、販売記録の保存を行い、再発防止につなげましょう。 薬剤師は販売者であると同時に、地域社会におけるゲートキーパーの役割を担っています。あなたの適切な対応が、目の前の一つの命を守るきっかけになるかもしれません。
まとめ
市販薬によるオーバードーズは、決して特別な人だけに起こる問題ではなく、誰にでも起こり得る身近なリスクです。薬剤師は販売現場で最前線に立ち、購入者の小さな変化やサインに気づける唯一の専門職でもあります。
法改正や行政の動きを正しく理解し、販売記録や対話を通じてリスクを最小限に抑えることが重要です。また、地域の医療機関や行政との連携を強化し、必要に応じて相談・報告できる体制を整えることも、薬剤師に求められる社会的責務といえます。
日々の販売対応の中で「不安を感じたときに立ち止まる勇気」「声をかける勇気」を持つことが、薬剤師が果たせる役割であり、命を守る行動の第一歩です。
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