コラム

トレーシングレポートの書き方・記入例|目的・基本構成・医師に伝わるコツをわかりやすく解説

患者から聞き取った大切な情報について、「これって医師に伝えるべき? それとも私の気にしすぎ……? 伝えるなら電話? レポート?」と、線引きに迷った経験はありませんか。

忙しい医師に煙たがられるのが怖くて、つい手元のメモに残して終わらせてしまう――そんな薬剤師の方も多いはずです。しかし、トレーシングレポート(服薬情報提供書)には、誰でも迷わず書ける明確な型と判断基準があります。

この記事では、疑義照会との違いから、そのまま使える記入例、医師に読んでもらうための配慮までを徹底解説します。
この記事を読むと「線引きがわかった」「これなら自信を持って書ける」と思えるようになるでしょう。

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執筆者
藤野 紗衣
薬剤師ライター 藤野 紗衣
ドラッグストア約1年、病院薬剤師は総計30年(2病院)の勤務経験あり!
現在は薬剤師ライターとして医療記事や薬学記事の執筆をしています。

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株式会社医学アカデミー

トレーシングレポートとは?目的と役割

服薬情報提供書(通称:トレーシングレポート)とは、薬局薬剤師から処方医へ「緊急性は低いものの、治療に役立つ情報」を伝えるための文書です。

外来での医師の診察は、数分間で終わることも珍しくありません。患者も緊張感から、医師には「変わりないです」と答えてしまい、「実は家に30日分薬が残っている」「味が苦手で吐き出している」といった本音を伝えきれていないケースが多々あります。
こうした診察場面では把握しきれない情報を医師へ補足する手段として、トレーシングレポートが活用されます。日常的な服薬状況や生活背景を踏まえた情報を薬剤師が提供することで、処方の見直しや治療方針の調整につなげることが目的です。

なお、トレーシングレポートによる処方医への文書報告は、調剤報酬における「服薬情報等提供料」の算定要件にも明確に位置付けられています。

出典:九州厚生局|調剤報酬点数表に関する事項(別添3・留意事項通知)
出典:厚生労働省|調剤報酬点数表(別表第三)
出典:広島県薬剤師会|トレーシングレポートの活用について

トレーシングレポートと疑義照会の違い

薬局薬剤師が迷いやすいのが、「疑義照会すべきか、トレーシングレポートでよいか」という問題です。前提として、トレーシングレポートは「調剤後に送る文書」であり、疑義照会の代わりにはなりません。すぐ確認すべきことは疑義照会、次回診療に活かすことはトレーシングレポートと使い分けます。

以下の比較表で、それぞれの役割と仕組みを整理しましょう。

【トレーシングレポートと疑義照会の比較】

比較項目疑義照会トレーシングレポート
主な目的処方の疑問点を解消し、目の前の調剤を確定させる服薬状況を共有し、次回の治療・処方に活かす
タイミング調剤前・交付前(解決するまで薬は交付できない)調剤後・服薬期間中(いつでもよい)
緊急性高い(その場でのレスポンスが必要)低い(次回診察までに医師が読めればよい)
主な連絡手段電話やFAXFAX または 専用システム
処方変更その場で変更される次回受診時に検討される
代表的な内容用法用量の誤り、併用禁忌、過量投与、重複処方自己判断での休薬・残薬、軽微な副作用傾向、剤形変更の提案
制度上の位置づけ薬剤師法第24条に基づく法的義務服薬情報等提供料の算定対象

判断に迷うときは、シンプルに「調剤を止めてでも今すぐ確認すべきか(疑義照会)」「次回診察時の処方設計に活かせれば十分か(トレーシングレポート)」という二択で考えてみましょう。

疑義照会の具体的な手順については、以下の記事で説明しています。あわせてご覧ください。

疑義照会のポイントとは?|薬剤師が押さえるべき基本手順と記録の書き方、電話のコツ

トレーシングレポートを送るか迷ったときの判断軸

「この情報はトレーシングレポートを送るべき? それとも薬歴に書くだけ?」と迷ったときは、【緊急性】と【重大性】の2つの視点から「送る/送らない」を判別しましょう。

【緊急性】今すぐ調剤を止める必要があるか?

最初の関門は「患者に今この薬を渡した場合、今日から明日の間に健康被害が出るか」という視点です。
もし答えが
「YES(明らかな過量投与、併用禁忌、重篤な副作用の前兆など)」であれば、相手がどれほど忙しい医師であっても、その場で疑義照会しなければなりません。

「NO(今、渡しても安全。次回診療までは待てる。)」と判断できる場合は【重大性】も確認したうえでトレーシングレポートの送付を検討しましょう。

【重大性】次回の処方設計に影響を与える情報か?

第2の関門は、「医師が、次回の診察で『処方内容を変更する(増減薬・剤形変更・他剤への切り替え・休薬など)』といったアクションを起こし得る情報か」です。

  • 重大性が低い例(=送らなくていい)
    「粉に苦味があって少し飲みにくいが、本人がオブラートを使って服用できている」
    ⇒ 患者自身で解決済のため薬歴メモに残せば十分であり、医師へ送る必要はないと判断。
  • 重大性が高い例(=送るべき)
    「粉の苦味が強く、毎回吐き出してしまい3日に1回しか飲めていない」
    ⇒ 医師が「シロップに変えようか」と処方変更を検討できるため、送信価値がある。

医師が読んでも対応につながらず、「参考情報」にとどまってしまう内容は、重大性が低いといえます。

トレーシングレポートの書き方とひな形

トレーシングレポートを執筆するとなった際、ゼロから文章をひねり出す必要はありません。厚生労働省が公表している標準様式をベースに、一定のルールに沿って項目を埋めていくだけで作成できます。ただし、提出先が独自様式を持つこともあるので、事前に確認しましょう。

厚生労働省の標準様式

基本になる書式は、厚生労働省が提示している別紙様式を活用するのが確実です。継続的な服薬状況を伝える「通常版(様式1-1)」と、予定入院の前に持参薬や休薬状況を報告する「入院前版(様式1-2)」の2種類があります。レセプトコンピュータなどに搭載されているテンプレートも、基本はこの様式に準拠しています。

出典:厚生労働省|患者の服薬状況等に係る情報提供書(別紙様式1-1)/入院前の患者の服薬状況等に係る情報提供書(別紙様式1-2)

伝わる記載の基本とSOAPによる整理法

限られたスペースで伝えるには、基本が大切です。

  • 簡潔に
  • 要点を先に
  • 提案には根拠を添える

情報を整理する際には、薬歴で用いるSOAP形式に当てはめると分かりやすくなります。

【基本の記載項目】

記載項目
S(患者の訴え)「お昼は仕事が忙しくて、どうしても飲むのを忘れる」
O(客観的状況)昼食後の〇〇錠が計30錠残薬あり
A(薬剤師の評価)1日3回服用のアドヒアランス維持が困難な状態
P(提案)1日2回(朝・夕)処方への変更提案

この4要素に沿って整理することで、トレーシングレポートの基本構造を自然に組み立てることができます。

SOAPについては、以下の記事で解説しています。あわせてご参照ください。

いまさら聞けない「薬歴の書き方」とは?|SOAP形式・記載例・注意点をわかりやすく解説

記録の質を高めるための基本ポイント

病院に届いたレポートは、多くの場合スキャンされて患者の電子カルテに取り込まれ、公式記録の一部になります。5年後に医師がこのカルテを開いたとき、見返すことのできる文書になっているかを意識しましょう。

「〜な印象を受けた」「〜と思う」といった主観的な表現は避け、客観的な事実に基づいて記載する必要があります。
情緒的な表現は、数字や固有名詞に置き換えることが重要です。

【表現の比較】

主観表現客観表現
お薬がかなり余っているようです  〇〇錠(医薬品名)が計28錠、残薬として保管されています
市販の痛み止めをよく飲んでいるとのことです市販の『ロキソニンS』を週に3〜4回服用しているとの発言あり

提出前に必ず確認したい病院ごとの独自ルール

せっかく完璧な文書を送っても、ルールを間違えると送付先で必要な部署へ届きません。大きな病院ほど、「地域医療連携室専用の独自フォーマットを使うこと」「専用のFAX送付状を添えること」といったルールを持っています。提出前には、必ず送信先病院のWebサイトを確認しましょう。

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トレーシングレポートの記入例  

ここでは、遭遇する頻度が高い3つの場面ごとに、具体的な記入例を紹介します。「惜しい書き方」と「伝わる書き方」を見比べることで、ご自身の文章をブラッシュアップするヒントにしてみましょう。

ケース1:自己判断での服用調整・残薬

【事例サマリー】

他院(精神科)から複数処方されている抗不安薬などが「大量に余っているので処分してほしい」と息子が来局。自店での調剤薬ではなかったが事実をレポートで報告したところ、主治医から「本人のアドヒアランス評価が難しくなっていたため非常にありがたい。次回診察時に残薬は主治医が直接預かる」と感謝された。

【惜しい書き方(NG例)】

ご家族が抗不安薬の残薬を大量に持参されました。飲み忘れが多いようです。次回から処方日数の調整をお願いします。

【医師に伝わる書き方(OK例)】

ご長男より「本人が飲みたがらず、薬が大量に余っている」と相談を受け、〇〇錠を計45錠持参されました。自局で調剤した薬ではないため判断に迷いましたが、全体的な服薬状況の共有としてご報告いたします。なお、お預かりした残薬は当方にて一時保管しております。次回診察時、処方日数の調整および残薬の取扱についてご検討いただけますと幸いです。

【ポイント】

複数受診している患者の全体的な残薬状況は、処方医にとって欲しい情報(アドヒアランス評価に必要)です。その場で廃棄・減薬せず、事実のみを送りましょう。すでに違う用法で毎日飲んでいる事実が確定した場合は、その場での疑義照会になります。

ケース2:副作用が疑われる症状の訴え

【事例サマリー】

貼付剤の開始後、「眠気と体のだるさがある。他の方のように半量に切って使えないか?」と電話相談あり。「症状は軽微なのでしばらく様子を見る」との本人の意向と併せて報告。誤った使用方法の回避と減薬につながった。

【惜しい書き方(NG例)】

〇〇貼付剤の使用後、眠気があるとのことです。副作用が疑われるため、次回の受診時に処方内容の変更をお願いいたします。

【医師に伝わる書き方(OK例)】

〇〇貼付剤を開始後、「日中の眠気と体のだるさがある。知人のように半分に切って貼ってもいいか」とご相談がありました。切断不可である旨を説明し、「症状は軽微なのでしばらく様子を見る」とのご本人の意向と併せて継続しております。過量投与の可能性も考えられますため、次回ご診察時に継続可否をご判断いただけますと幸いです。

【ポイント】

本人が薬の使用を完全にストップしているなら疑義照会です。「一応使えてはいるが、本人が違和感を覚えている」という場合がトレーシングレポートの適応になります。

ケース3:アドヒアランス低下に対する一包化・剤形変更の提案

【事例サマリー】

多剤処方されている高齢患者家族より、「シートから薬を出すのが大変で、朝と夜を飲み間違えたり、シートごと紛失したりしてしまっている」と相談あり。薬剤師が「手指の巧緻性(シートから押し出す力)の低下」という要因を確認した上で、次回受診時からの一包化指示を提案した。

【惜しい書き方(NG例)】

お薬の種類が多く管理が難しそうなので、次回処方時より一包化指示の記載をお願いいたします。

【医師に伝わる書き方(OK例)】

ご家族より「手先が思い通りに動かず、シートから出す際に床に落として紛失してしまう」とご相談を受けました。手指巧緻性の低下が物理的な阻害要因となっていると考えられますため、次回より一包化でのご処方をご検討いただけますと幸いです。
処方中の〇〇錠を含め、全内服薬について一包化における安定性に問題がないことを確認しております。また、一包化に伴う窓口負担額の変更についてご本人・ご家族へ説明し、了承を得ております。

【ポイント】

「一包化してください」と書くのではなく要因を添えます。さらに、吸湿性などのスクリーニングが済んでいること、患者とお金の合意が取れている旨の記載があるだけで、レポートは採択されやすくなります。

医師に読んでもらえるトレーシングレポートのコツ

医師は、毎日たくさんの書類に目を通しています。敬遠されないためには、医療人としての正しさだけでなく、相手の時間を奪わないための配慮が欠かせません。

医師は背景を知らない前提で書く

忙しい合間にカルテを開く医師は、患者が今どういう状況なのか瞬時には思い出せません。

「先日の処方について」といった抽象的な書き方は避け、必ず「〇月〇日処方分について」「〇〇科・〇〇先生ご処方分」と日付と診療科を明記しましょう。医師が電子カルテの該当ページに迷わずアクセスできる状態を作るのが親切な書き出しです。

結論(一番伝えたいこと)を最上部に置き、長文は避ける

「患者さんが来局され、挨拶をしたあと〇〇と言われ……」といった時系列の描写はNGです。簡潔さと必要十分な情報を両立させるため、「【結論】残薬調整のご相談」「【結論】一包化のご提案」と、結論を最上部に置きましょう。当然の内容をダラダラ書かず、結論を先に伝えることで長文を避けられます。

指示ではなく「提案・情報提供」のスタンスを貫く

処方権を持っているのは、医師です。薬剤師側が処方を決定づけるようなニュアンスは、煙たがられる原因になり得ます。

  • ×「〜に変更してください」⇒ 〇「〜への変更も選択肢となるかと思われますが、いかがでしょうか」
  • ×「〜を中止してください」⇒ 〇「休薬をご検討いただく余地はございますでしょうか」

相手の専門性を尊重するスタンスを貫きましょう。

薬学的な根拠(データ・ガイドライン)を添える

剤形変更を提案するなら簡易懸濁法のデータを、副作用を疑うなら各種ガイドラインに記載された初期症状など、薬学的な根拠を少しだけ添える工夫をしましょう。薬学的な根拠が、処方変更の最後のひと押しになるでしょう。

対人業務のスキルを高めるには  

トレーシングレポートが書けるということは、「患者の情報を、医療チームが共有できる情報に変換できる薬剤師である」という証であり、成長した薬剤師である証です。レポート作成は対人業務スキルの一つですが、現場の独学だけではどうしても「自分のクセ」に気づきにくい領域でもあります。

「他の薬剤師はどう書いているのか」「最新の薬学的エビデンスをレポートにするにはどう書けばいいか」を体系的に学び続ける場としておすすめなのが、薬剤師の生涯学習を支援する「ためとこ」です。

忙しい薬局勤務でも隙間時間で学べる機能を持つe-ラーニング形式の「ためとこ」のプランは5つあります。学習の目的によって選ぶことができ、研修認定薬剤師の新規取得も目指せます。日々の業務をこなしながら、確かなスキルを積み上げていきませんか。

出典:研修認定薬剤師制度対象eラーニング「ためとこ」

まとめ

トレーシングレポートは、次回診療に活かす客観情報を伝える文書です。迷ったら「今すぐ調剤を止めるべきか(疑義照会)」「次回の処方設計に影響を与えるか」の基準で切り分けましょう。

結論を先に、敬意と薬学的根拠を添えて送るのが読まれるコツです。まずはあなたの手元のメモを1通、レポートに変えて送ってみませんか。

た め と こ
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