薬物乱用頭痛(MOH)を防ぐために
2026.03.10

「頭痛薬を飲んでいるのに、最近はほとんど効かない」「毎日のように鎮痛薬を飲んでいる」——こうした訴えの背景には、薬物乱用頭痛(MOH)が隠れている可能性があります。MOHは、片頭痛や緊張型頭痛に次いで3番目に多い頭痛とされていますが、患者自身が気づきにくく、医療機関を受診しないまま市販の鎮痛薬を買い続けているケースも少なくありません。
本記事では、MOHの基本的な知識を整理したうえで、薬局やドラッグストアの薬剤師がMOHの早期発見と予防にどう関われるかを考えます。
目次
MOHとは
MOH(Medication Overuse Headache)は「薬剤の使用過多による頭痛」とも呼ばれ、もともと片頭痛や緊張型頭痛をもつ方が鎮痛薬を過剰に使用し続けることで、かえって頭痛の頻度や強度が増してしまう状態を指します。
国際頭痛分類(ICHD-3)では、以前から頭痛がある方に月15日以上の頭痛が生じており、急性期の頭痛治療薬を3か月を超えて定期的に過剰使用している場合にMOHと診断されます。
薬の種類によって「使いすぎ」の基準日数が異なるため、以下の表で確認しておきましょう。
| 薬の種類 | MOHの基準となる使用日数 |
| NSAIDs・アセトアミノフェンなどの単一成分の鎮痛薬 | 月15日以上 |
| トリプタン・複合鎮痛薬(カフェイン含有の合剤など) | 月10日以上 |
一般集団における有病率は1〜2%と推定されており、女性に多く、平均年齢は40〜50代です。
日本では特に市販の複合鎮痛薬(カフェインを含む合剤など)がMOHの原因として多いとされ、痛みへの不安から「痛くなりそうなときに先に飲む」という予防的な服用が悪循環の入り口になりやすい点が特徴です。
治療の基本は原因となる薬の中止と予防薬の導入ですが、離脱後1年以内に約3割が再発するとされており、継続的なフォローが欠かせません。
薬局はMOH患者を最も見つけやすい
MOHの原因となる薬の多くは、薬局やドラッグストアで販売されているOTC鎮痛薬です。頭痛に悩む方の多くは医療機関を受診せず、市販の鎮痛薬で対処し続ける傾向があり、結果としてMOHに陥っていても本人がその状態に気づいていないケースが多くみられます。
ここで重要なのが、薬局・ドラッグストアの薬剤師の存在です。OTC鎮痛薬を繰り返し購入する方と直接接点をもつ薬剤師は、MOHを最も早い段階で見つけ、医療機関への橋渡しができるポジションにあるといえます。医師がMOHを診断するのは患者が受診した後ですが、薬剤師は「受診前」の段階で気づける可能性がある点で、MOH対策における薬局の役割は非常に大きいといえるでしょう。
薬局・ドラッグストアの薬剤師に求められる対応例
先述のとおり、薬剤師はMOHを「受診前」の段階で見つけられる立場にあります。とはいえ、限られた接客時間のなかでどこまで踏み込めるのか、悩む方も多いのではないでしょうか。
ここでは、日常業務の中で無理なく実践できる4つの対応例を紹介します。
購入時の声かけと使用状況の確認
鎮痛薬を購入する方に対して、頭痛の頻度や薬の使用日数をさりげなく確認することがMOH発見の第一歩です。「月に何日くらいお薬を飲まれていますか」「以前より効きにくくなったと感じることはありますか」といった声かけにより、月10日以上の使用が疑われる場合には早めに注意喚起できます。特に、カフェインを含む複合鎮痛薬を頻回に購入している方や、「痛くなる前に飲んでいる」と話す方はMOHのリスクが高いため、重点的に確認したい対象です。
MOHの疾患概念をわかりやすく伝える
MOHを疑う方には、「鎮痛薬の飲みすぎによってかえって頭痛がひどくなることがある」という疾患の仕組みを、わかりやすい言葉で伝えることが大切です。「薬物乱用」という表現は違法薬物を連想させ、不快感や抵抗感を与える場合があるため、「お薬の使いすぎによる頭痛」「鎮痛薬の飲みすぎで起きる頭痛」といった表現を用いるとよいでしょう。多くの方は、鎮痛薬が頭痛を悪化させているという認識をもっていないため、この「気づき」を促すだけでも行動変容のきっかけになり得ます。
頭痛専門医や神経内科への受診勧奨
MOHが疑われる場合は、自己判断での急な断薬を勧めるのではなく、頭痛専門医や神経内科への受診を促すことが重要です。原因となる薬を中止すると一時的に頭痛が悪化する「反跳頭痛」が生じることがあり、予防薬の導入を含めた医師の管理のもとで離脱を進める必要があるためです。「頭痛の専門医に相談すると、今より楽になる方法が見つかるかもしれません」といった前向きな伝え方が、受診の後押しにつながります。
販売時の予防的な情報提供
MOHは発症後の治療よりも、未然に防ぐための予防が重要です。OTC鎮痛薬を販売する際には、「鎮痛薬の使用は月に10日未満を目安にしてください」「効きが悪くなったと感じたら、早めに医療機関に相談してください」といった情報提供を日常的に行うことで、MOHの発症を未然に防ぐことが期待できます。
頭痛ダイアリー(頭痛が起きた日や薬を飲んだ日を記録するもの)の活用を勧めるのも、使いすぎに本人が気づくための効果的な方法です。
まとめ
薬局やドラッグストアは、鎮痛薬を必要とする方にとって最も身近な相談先です。OTC鎮痛薬の販売という日常業務の中にMOHへの意識を組み込むことが、頭痛に悩む方のQOL向上と適切な医療へのアクセスを支える一歩になるのではないでしょうか。
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