コラム

呼吸器疾患における感染症予防

COPDや喘息、間質性肺疾患などの呼吸器疾患を持つ患者は、インフルエンザや肺炎といった感染症にかかった際、重症化するリスクが高い傾向にあります。薬剤師が感染症予防に関する正しい知識を持ち、適切な情報提供を行うことは、患者のQOL維持や疾患管理において重要です。

本記事では、呼吸器疾患患者における感染症予防の基本から、ワクチン・医薬品による予防、薬剤師が実践できる具体的な対応までを解説します。

呼吸器疾患と感染症の関係

呼吸器疾患患者が感染症に対して脆弱である背景には、気道の防御機能低下が深く関わっています。健常者であれば軽症で済む感染症でも、基礎疾患を持つ患者では重症化や入院につながるケースが珍しくありません。

感染症は基礎疾患の急性増悪を引き起こす主要因でもあり、予防の重要性を理解しておく必要があります。

気道防御機能の低下が招くリスク

健常者の気道は、粘液線毛クリアランスによって病原体や異物を排除する仕組みを備えています。しかし、COPDや喘息では慢性的な炎症により線毛機能が障害され、この防御機構が十分に働きません。加えて、気道上皮のバリア機能低下や局所免疫の異常も生じやすくなります。

間質性肺疾患では肺胞レベルでのガス交換障害に加え、免疫抑制薬を使用している場合は全身性の免疫低下も生じます。こうした複合的な要因により、呼吸器疾患患者は感染症の発症リスクが高まり、一度感染すると重症化しやすい状態にあるため注意が必要です。

感染が引き起こす疾患の増悪

呼吸器感染症は、基礎疾患の急性増悪を引き起こす主要な原因です。COPD患者ではウイルス感染が増悪の約50〜70%に関与するとされ、入院や死亡リスクの上昇につながります。 喘息患者においても、ライノウイルスなどの感染が発作の誘因となることが知られています。感染予防は単なる風邪対策ではなく、基礎疾患の管理において不可欠な要素といえるでしょう。

主な呼吸器感染症

呼吸器疾患患者が特に注意すべき感染症は、インフルエンザ、COVID-19、肺炎などです。これらの感染症は季節性の流行や変異株の出現により、毎年一定の脅威となっています。

高リスク患者を把握し、適切な予防策を講じることが重症化防止の鍵となります。

注意すべき3つの感染症

インフルエンザは毎年流行し、COPD患者では健常者と比較して入院リスクが数倍高くなります。

COVID-19は呼吸器疾患を持つ患者で重症化リスクが高く、特に高齢者や免疫抑制状態にある患者では注意が必要です。

肺炎は細菌性・ウイルス性ともに発症しやすく、肺炎球菌性肺炎は高齢のCOPD患者で特に頻度が高い傾向にあります。

これらの感染症に対する予防策を患者に伝えることは、薬剤師の重要な役割の一つです。

高リスク患者の特徴

感染症リスクが特に高い患者として、65歳以上の高齢者、COPD・喘息・間質性肺疾患の患者、免疫抑制薬を使用している患者が挙げられます。

糖尿病や心疾患などの併存疾患がある場合もリスクが上昇するため、より積極的な予防指導が求められます。

感染症予防の基本対策

感染症予防の基本は、感染経路を遮断することにあります。手洗い・手指衛生は最も基本的かつ効果的な感染予防策です。

流水と石けんによる手洗いを20秒以上行うか、アルコール製剤による手指消毒を徹底するよう指導しましょう。マスクは正しく装着することで飛沫感染の予防に有効ですが、鼻と口を覆い隙間なくフィットさせる必要があります。咳エチケットとして、咳やくしゃみの際はティッシュや肘の内側で口と鼻を覆うことも伝えるべきポイントです。

感染経路別の対策

飛沫感染(インフルエンザ、COVID-19など)にはマスク着用と対人距離の確保が有効です。接触感染には手指衛生の徹底と、顔を触らない習慣づけが重要となります。

空気感染(結核、麻疹など)は特殊な対策が必要であり、医療機関での適切な隔離措置が求められます。

ワクチンによる予防

ワクチン接種は、呼吸器疾患患者にとって最も効果的な感染予防策の一つです。発症予防だけでなく、重症化や入院リスクの低減にも寄与します。薬剤師として接種状況を確認し、未接種の患者には積極的に接種を勧奨することが大切です。

  • インフルエンザワクチン

呼吸器疾患患者には毎年のインフルエンザワクチン接種が推奨されています。接種により発症予防だけでなく、重症化や入院リスクの低減も期待できます。流行前の10〜11月に接種を完了することが望ましいでしょう。

  • 肺炎球菌ワクチン

肺炎球菌ワクチンにはPCVとPPSVの2種類があります。65歳以上の高齢者は、PPSV23が定期接種として実施されています。現在PCVは任意接種(自費)となりますが、両ワクチンの併用により、より広範な血清型をカバーすることが可能です。

  • COVID-19ワクチン

COVID-19ワクチンは重症化予防に有効であり、呼吸器疾患患者では接種が推奨されます。流行状況や患者の状態に応じて、追加接種の必要性を検討することが大切です。

薬剤師として、ワクチンに関する正確な情報提供と接種勧奨を行いましょう。

医薬品による予防・管理

感染症予防において、医薬品の適正使用に関する知識も欠かせません。抗菌薬や抗ウイルス薬の役割を正しく理解し、患者に適切な情報を提供することが求められます。

吸入薬を使用している患者では、感染リスクとの関連についても把握しておく必要があるでしょう。

抗菌薬の適正使用

抗菌薬の予防的投与は、原則として推奨されていません。不適切な使用は耐性菌の出現リスクを高め、将来的な治療選択肢を狭めることにつながります。

ウイルス感染症に対する抗菌薬処方の不要性を、患者に説明することも薬剤師の役割です。

吸入ステロイドと感染リスク

喘息やCOPDで使用される吸入ステロイドは、口腔・咽頭カンジダ症のリスクを高める可能性があります。吸入後のうがいを徹底するよう指導することが重要です。

高用量の吸入ステロイド使用時は、肺炎リスクがやや上昇するとの報告もあるため、ベネフィットとリスクのバランスを考慮した管理が求められます。

生活習慣・環境改善による予防

バランスの取れた栄養摂取と十分な睡眠は、免疫機能の維持に不可欠です。適度な運動も免疫力向上に寄与しますが、呼吸器疾患患者では過度な負荷を避ける必要があります。

室内環境では、定期的な換気と適切な湿度(40〜60%)の維持が感染リスク低減に効果的です。また、喫煙は気道の防御機能を著しく低下させるため、禁煙支援は感染予防の観点からも重要な取り組みとなります。受動喫煙の回避についても、患者と家族の両方に伝えることが大切です。

薬剤師の役割と実践

薬剤師は、感染症予防において多面的な貢献が可能です。服薬指導の場面では、ワクチン接種状況の確認と未接種者への接種勧奨を行いましょう。吸入薬の適正使用指導を通じて、基礎疾患の安定化と感染リスク低減の両方に貢献できます。手洗いや咳エチケットといった基本的な予防策についても、繰り返し伝えることが効果的です。

高リスク患者を把握し、流行期前に注意喚起を行うことも予防につながるでしょう。医療チームの一員として、感染症に関する最新情報を収集し、他職種と共有する姿勢も求められます。

まとめ

呼吸器疾患患者は気道防御機能の低下により、感染症の発症・重症化リスクが高い状態にあります。予防の基本は手洗い・マスク・せきエチケットの徹底であり、ワクチン接種も積極的に勧奨しましょう。

薬剤師として、服薬指導の場面を活用した予防教育や高リスク患者への注意喚起を日常業務に取り入れることが大切です。

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