コラム

高血圧治療における生活習慣指導

高血圧治療において、生活習慣の改善は薬物療法と並ぶ重要な柱です。 日本高血圧学会のガイドラインでも、生活習慣の修正は降圧治療の基本として位置づけられています。 薬局薬剤師は患者と継続的に接する機会が多く、生活習慣指導において大きな役割を担えるでしょう。

 本記事では、食事・運動・飲酒・喫煙・睡眠といった各領域における指導のポイントと、患者の行動変容を促すための実践的なアプローチを解説します。

なぜ生活習慣指導が重要なのか

高血圧の発症・進行には、食塩摂取過多、肥満、運動不足、過度の飲酒など生活習慣が深く関与しています。

生活習慣改善には単独でも降圧効果があり、薬物療法の基盤として重要な役割を果たします。

軽症高血圧では、生活習慣改善のみで血圧が正常化することもあります。

Ⅰ度高血圧で低・中等リスクの場合、まず生活習慣改善を行い、効果不十分であれば薬物療法を開始するのが基本です。

薬物療法と生活習慣改善は「どちらか」ではなく「両立」させるものといえるでしょう。降圧薬を服用している患者でも、生活習慣改善によってより少ない薬剤数・用量での血圧コントロールが期待できます。 「薬を飲んでいるから生活習慣は気にしなくてよい」という誤解を持つ患者には、両立の重要性を伝えることが大切です。

食事指導の基本|減塩を中心としたアプローチ

減塩は、生活習慣改善の中で最も降圧効果が大きいとされています。

高血圧患者では1日6g未満が推奨されていますが、日本人の平均食塩摂取量は約10gと大きな乖離があるのが現状です。

日本人の食生活は醤油や味噌、漬物など塩分を多く含む食品が身近にあり、意識しなければ摂取量が増えやすい特徴があります。

そのため、高血圧治療において減塩指導は特に重要であり、薬局薬剤師が継続的に関わる意義も大きいでしょう。

薬局で伝えやすい減塩ポイント

指導項目具体的なポイント薬局での伝え方
目標食塩摂取量高血圧患者では1日6g未満が推奨される「小さじ1杯が約6gです」と具体的にイメージを伝える
加工食品・外食ハム、漬物、麺類のスープなどは塩分が多い「麺類のスープを残すだけでも2〜3g減らせます」
調味料の工夫醤油やソースは「かける」より「つける」「減塩タイプに変えるだけでも効果的です」
できるところから「全部減らす」は続かない「まずはできそうなことから始めましょう」

「すべての塩分を減らす」という指導は患者にとって負担が大きく、継続が難しくなります。 1つずつ取り組む姿勢で伝えると、患者の抵抗感が軽減されるでしょう。

カリウム摂取の考え方

カリウムには血圧を下げる作用があり、野菜や果物からの摂取が推奨されています。 ナトリウムの排泄を促進することで、減塩と相乗的な効果が期待できます。 ただし、腎機能が低下している患者ではカリウム制限が必要な場合があるため、eGFR値を確認したうえで指導することが大切です。

体重管理・運動習慣の指導

肥満は高血圧の重要なリスク因子です。 BMI 25以上の肥満者では、体重を4〜5kg減らすと収縮期血圧が約4mmHg低下するとされています。 体重管理は減塩と並んで降圧効果が期待できる生活習慣改善のひとつです。

有酸素運動のすすめ方

有酸素運動には降圧効果があり、定期的な運動習慣が推奨されています。 ウォーキングなど軽い運動から開始し、1日30分程度、週に5日以上を目安に継続することが効果的です。 運動による降圧効果は、収縮期血圧で2〜5mmHg程度と報告されています。

ただし、Ⅲ度高血圧や心血管疾患を合併している患者では、運動開始前に医師への相談が必要でしょう。 薬局では「いきなり運動を始めましょう」ではなく、現実的な声かけが大切です。 「エレベーターより階段を使う」「買い物は少し遠いお店まで歩く」など、日常生活に取り入れやすい提案が受け入れられやすくなります。

飲酒・喫煙への対応

飲酒と喫煙は、いずれも血圧や心血管リスクに影響を与えます。

高血圧治療ガイドラインでも、節酒と禁煙は生活習慣修正の重要項目として位置づけられています。

ただし、飲酒や喫煙は患者の嗜好や生活習慣に深く根付いているため、一方的に「やめてください」と伝えても行動変容にはつながりにくいでしょう。

患者の価値観を尊重しながら、リスクを正確に伝え、段階的な改善を支援する姿勢が大切です。

飲酒と血圧の関係

過度の飲酒は血圧を上昇させることが知られています。 節酒の目安は、エタノール換算で男性20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以下です。 具体的には、日本酒1合、ビール中瓶1本、ワイン2杯程度が上限となります。

「お酒をやめてください」という指導は患者の反発を招きやすいでしょう。 「量を少し減らしてみませんか」「休肝日を週2日作りましょう」といった段階的なアプローチが効果的です。

喫煙が心血管リスクに与える影響

喫煙は一過性に血圧を上昇させるだけでなく、動脈硬化を促進し、心血管イベントのリスクを大幅に高めます。 高血圧患者における禁煙の重要性は非常に高く、禁煙外来や禁煙補助薬の情報提供も薬剤師の役割です。 「やめたい気持ちがあれば、サポートできますよ」といった声かけで、禁煙への準備を支援しましょう。

睡眠・ストレスと血圧

睡眠不足は交感神経の活性化を介して血圧上昇に関与します。

慢性的な睡眠不足が続くと、夜間血圧の低下が不十分となり、心血管リスクが高まる可能性があります。

また、仕事や人間関係などのストレスも一過性の血圧上昇を引き起こす要因です。

睡眠やストレスは減塩や運動と比べて指導の対象として意識されにくい領域ですが、血圧コントロールに影響を与える重要な因子といえるでしょう。

薬局での会話を通じて患者の生活背景を把握し、必要に応じて受診勧奨につなげることも薬剤師の役割です。

睡眠時無呼吸症候群との関連

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、二次性高血圧の原因として重要です。 いびきや日中の強い眠気を訴える患者では、SASの合併を疑う必要があるでしょう。 該当する症状がある場合は、医師への相談を促してください。

ストレスによる一過性の血圧上昇も見逃せません。 「最近忙しいですか」「睡眠は取れていますか」といった声かけで、患者の生活背景を把握することが可能です。 仕事や家庭環境の変化が血圧変動の要因となっていることもあります。

家庭血圧測定と行動変容支援

家庭血圧測定は、白衣高血圧や仮面高血圧の発見に有用なだけでなく、患者自身の意識向上にもつながります。 毎日の測定値を記録することで、生活習慣の改善が数値として実感できるでしょう。

測定習慣を継続させる関わり方

「血圧手帳を見せていただけますか」と声をかけ、数値の変化を一緒に確認する姿勢が重要です。 「減塩を意識されてから、少し数値が下がってきましたね」といったフィードバックは、患者の行動変容を後押しするでしょう。 測定していない患者には、「朝起きてすぐ、トイレの後に測る習慣をつけてみませんか」と具体的な測定タイミングを提案すると実践につながりやすくなります。

薬局薬剤師が行う生活習慣指導の実践ポイント

薬局での生活習慣指導は、一度にすべてを伝えようとしないことが成功の鍵となります。 情報過多は患者の負担となり、かえって実行につながらない可能性もあります。

生活習慣指導を実践する際のポイントや、具体的な例は以下のとおりです。

実践ポイント具体的な内容
できていることを評価する「塩分を気にされているんですね」など肯定的な声かけ
数値と行動を結びつける「ウォーキングを続けているから血圧が安定しているのかもしれませんね」と具体的に説明
押しつけにならない工夫「よければ試してみてください」という姿勢

患者がすでにできていることを評価し、血圧の数値と具体的な行動を結びつけて説明すると効果的です。

急な血圧変動や多剤使用でも改善しないケースなど、気になる点があれば医師へ情報提供を行い、多職種連携のなかで患者をサポートしていく視点も大切でしょう。

まとめ

生活習慣指導は、薬物療法の効果を最大限に引き出し、患者のQOL向上に貢献するための重要なアプローチです。 一度にすべてを伝えるのではなく、患者の状況に合わせて段階的に関わることで、継続的な行動変容につなげていきましょう。 日々の服薬指導の中で本記事の内容を活かし、患者の血圧管理をサポートしてください。

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