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薬剤師のフィジカルアセスメント|実施できる範囲と始める前に確認したいこと

フィジカルアセスメントとは、患者の身体所見を確認するだけでなく、得られた情報が何を示しているのかを考え、患者の状態や薬物療法と関連づけて評価することです。

病棟や在宅の現場では、副作用の早期発見や薬物療法の有効性・安全性を確認するために、バイタルサインや身体所見を確認したい場面があります。一方で、「薬剤師が患者の身体に触れてよいのか」「薬剤師が道具を使用してもよいのか」と、実施できる範囲に迷うこともあるでしょう。

薬剤師がフィジカルアセスメントを行ううえで重要なのは、診断や治療方針の決定ではなく、薬害の防止や医薬品の適正使用を目的として行うことです。

この記事では、薬剤師がフィジカルアセスメントを行える範囲や、医師の了解が必要となる手技、実際に業務へ取り入れる前に確認しておきたいポイントを整理します。

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フィジカルアセスメントとは身体所見の評価までを指す

フィジカルアセスメントの「フィジカル」は身体を、「アセスメント」は評価を意味します。身体所見を集めて把握するだけでなく、得られた所見が何を示しているのか、どのような要因が考えられるのかを評価するところまでを含みます※1

身体所見は、検者が視覚・聴覚・触覚を使い、時に道具を用いて患者の身体から得る客観的な情報です。

患者から得られる情報は、大きく「自覚症状」「身体所見」「検査所見」に分けられます。このうち、視診・触診・打聴診などによって身体所見を収集し、その意味を評価する一連の過程がフィジカルアセスメントです※1

バイタルサインの確認もフィジカルアセスメントの一部

意識、呼吸、血圧、脈拍、体温といったバイタルサインの確認も、フィジカルアセスメントの一部です※1

これらは患者の全身状態を把握するための基本的な身体情報であり、特に救急医療や急変時には、重篤な状態を早期に捉えるための重要な指標となります。なお、痛みを「第5のバイタルサイン」として扱う場合もあります※1。

  • 意識:昏睡、昏迷、傾眠など
  • 呼吸:頻呼吸など
  • 血圧:血圧低下など
  • 脈拍:頻脈、徐脈、不整脈など
  • 体温:発熱、低体温など

病院薬剤師におけるフィジカルアセスメントの考え方

患者や家族から聴取した情報に加え、視覚・聴覚などから得られる情報やバイタルサインなどの客観的な身体情報を統合し、患者の状態を評価します。

薬剤師による副作用の回避・重篤化防止などを報告する「プレアボイド報告」において、フィジカルアセスメントを端緒とした事例として扱われるためには、次の2つの条件を満たすことが示されています※2。

日本病院薬剤師会では、病院薬剤師が行うフィジカルアセスメントについて、薬物治療の有効性と安全性を確保することを目的として位置づけています※2。

  • 介入のきっかけに、身体情報または生体検査情報(血圧、心電図など)が含まれている
  • その情報を薬剤師自身が取得している、または他職種やカルテなどから得た情報について、薬剤師が副作用症状の詳細を確認している

2022年2月から2023年1月までに集積された報告のうち、報告者自身が「フィジカルアセスメント」にチェックを入れたものは439件でした。

一方、そのうち287件(65.4%)は、身体情報にも生体検査情報にも基づいていませんでした※2。

フィジカルアセスメントは、単に患者へ詳しく聞き取りを行うことではなく、客観的な身体情報を薬学的評価につなげることが重要といえます。

※1 出典:日本病院薬剤師会「薬剤師によるフィジカルアセスメント~バイタルサインを学ぶ~」(2026年9月3日閲覧)
※2 出典:日本病院薬剤師会「病院薬剤師におけるフィジカルアセスメントを端緒とするプレアボイド報告の手引き」(2026年9月3日閲覧)

フィジカルアセスメントの目的は、薬物療法の有効性と安全性を確認すること

薬剤師が医薬品情報や検査値を確認するだけでは、実際に薬物療法が患者の身体へどのような影響を与えているかを十分に把握できない場合があります。

そこで重要になるのが、患者の自覚症状に加え、バイタルサインや身体所見などの客観的な情報です。

身体所見を継続的に確認することで、薬効の評価や副作用の早期発見につなげることができます。

また、身体所見を収集するために用いられる手技の多くは、身体への侵襲が比較的少ない方法です※3。

薬学的管理に必要な身体所見の観察・測定・評価は、6年制薬学教育のモデル・コア・カリキュラムや、薬剤師臨床研修ガイドラインにも盛り込まれています※1※2。

薬剤師臨床研修ガイドラインでは、入院患者の薬物治療開始後の薬学的管理として、必要に応じてバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントを実施し、投薬の妥当性を評価することが示されています※2。

副作用の早期発見と重篤化の回避につながる

患者の身体所見を継続的に確認することで、全身状態の変化を捉えやすくなり、患者自身が自覚していない異常に気づくこともあります。

フィジカルアセスメントは、薬物治療の有効性の確認だけでなく、安全性の評価や副作用の早期発見にも活用できます※3。

実際に、薬剤師によるフィジカルアセスメントが副作用の発見につながった事例があります。

1つ目は、薬剤師が患者との面談時に眼振を認め、フェニトイン中毒を疑った事例です。

患者は、てんかんに対してフェニトインとフェノバルビタールを長期服用していた50歳代の男性で、直腸がん切除後の肝転移に対する治療としてS-1が開始されました※4。

S-1開始24日目に、めまい、下肢脱力、目の眩しさ、構音障害、嘔吐が出現しました。S-1は中止されたものの症状は改善せず、28日目に緊急入院となりました。

32日目、薬剤師が患者との面談で眼振を認め、フェニトイン中毒を疑って医師と協議しました。協議の結果決まったのは、フェニトインの中止と、抗てんかん薬の血中濃度の測定です。

2つ目は、看護師からの情報提供をきっかけに薬剤師が患者を評価し、抗がん薬の投与延期につながった事例です。

腎がんに対してテムシロリムスの2回目投与を予定していた60歳代の男性について、点滴を担当する看護師から薬剤師へ、口腔粘膜障害がみられるとの報告がありました※4。

薬剤師が患者と面談したところ、4 日前から歯茎に腫れと痛みがあることを聴取し、主治医へテムシロリムスの投与延期を提案し、休薬することにつながりました。

効果判定には、自覚症状だけでなく客観的な情報も重要

患者から聴取する自覚症状は、薬物療法を評価するうえで重要な情報です。

一方、自覚症状は患者自身の感じ方に基づく主観的な情報であり、それだけでは患者の状態を十分に評価できないことがあります。

そのため、身体所見や検査所見などの客観的な情報を組み合わせて評価することが重要です。

特に病棟薬剤師については、薬物血中濃度やバイタルサインの確認に加え、必要に応じてフィジカルアセスメントを行い、副作用や治療効果を評価することが示されています※5。

服薬期間中の継続的なフォローは薬剤師の重要な役割

薬剤師法第25条の2第2項では、調剤した薬剤の適正な使用のため必要があると認める場合に、患者の薬剤の使用状況を継続的かつ的確に把握することが薬剤師に求められています※6。

例えば、比較的症状が安定し、長期投与を受けている患者の処方箋を分割して調剤する場合には、その都度、患者の状態を確認することが示されています※5。

自覚症状やバイタルサインを確認し、必要に応じて家族などからも情報を収集したうえで、副作用や治療効果を評価します。

服薬期間中のフォローについては、服薬指導の記事もご覧ください。

※1 出典:文部科学省「薬学教育モデル・コア・カリキュラム 令和4年度改訂版」(2026年9月3日閲覧)
※2 出典:厚生労働省「薬剤師臨床研修ガイドライン」(2026年9月3日閲覧)
※3 出典:日本病院薬剤師会「薬剤師によるフィジカルアセスメント~バイタルサインを学ぶ~」(2026年9月3日閲覧)
※4 出典:日本病院薬剤師会「病院薬剤師におけるフィジカルアセスメントを端緒とするプレアボイド報告の手引き」(2026年9月3日閲覧)
※5 出典:日本病院薬剤師会「厚生労働省医政局長通知(医政発0430第1号)「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」日本病院薬剤師会による解釈と実践事例(Ver.2.0)」(2026年9月3日閲覧)
※6 出典:e-Gov法令検索「薬剤師法」(2026年9月3日閲覧)

薬剤師がフィジカルアセスメントを行う際は「目的」が重要

薬剤師がフィジカルアセスメントを行ううえでは、その行為を何のために行うのかを明確にしておくことが重要です。

医師法第17条では、医師でなければ医業を行ってはならないと定められています※1。

医業とは、医師の医学的判断および技術によらなければ人体に危害を及ぼすおそれのある「医行為」を、反復継続する意思をもって行うこととされています※2。

また、ある行為が医行為に該当するかどうかについては、個々の行為の態様に応じて個別具体的に判断する必要があるとされています※2。

日本病院薬剤師会が2012年に発行した資料では、薬剤師によるバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントについて、何を目的として行うかという観点から整理されています※3。

目的考え方
治療(診断や治療方針の決定)医師が行う医業との関係に注意が必要
薬害の防止と適正使用の確保薬剤師が行い得る業務として整理されている

診断や治療方針の決定を目的としない

薬剤師がフィジカルアセスメントを行う目的は、疾患を診断したり、治療方針そのものを決定したりすることではありません。

例えば、同じ「呼吸音を聴く」という行為でも、肺炎の有無を診断して治療方針を決定することを目的とする場合と、薬剤性間質性肺炎などの副作用を疑い、医師への情報提供につなげることを目的とする場合では、行為の位置づけが異なります。

薬剤師が行う場合は、薬物療法の安全性・有効性を評価し、必要な対応を医師へ提案するための情報として活用することが重要です。

薬害防止と適正使用の確保を目的とする

2012年の日本病院薬剤師会の資料では、薬害防止や医薬品の適正使用を目的としたバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントについて、従前から薬剤師が適法に行い得るものと整理されています※3。

また、2010年の厚生労働省通知では、在宅患者を含む薬物療法を受けている患者への薬学的管理は、現行制度の下で薬剤師が実施できる業務の1つとして示されています※4。

その中には、副作用の状況把握や服薬指導などが含まれます。

さらに、薬物血中濃度や副作用のモニタリングなどに基づいて薬物療法の有効性・安全性を評価し、必要に応じて医師へ薬剤の変更等を提案することも示されています※4。

日本病院薬剤師会が2014年に示した解釈では、このような薬学的管理を行う手段として、患者との面談、フィジカルアセスメント、カルテの確認、回診やカンファレンスへの参加などが挙げられています※5。

体温や血圧の測定も、目的を明確にする

体温や血圧の測定についても、何を目的として行うのかという考え方が重要です。

2005年(平成17年)の通知では、医療機関以外の介護現場等において、医療に関する免許を持たない人が行う場合の参考として、「原則として医行為ではないと考えられる行為」が示されています※2。

この通知は薬剤師を直接の対象としたものではありませんが、測定行為として次の内容が挙げられています。

  • 水銀体温計・電子体温計による腋下での体温測定、耳式電子体温計による外耳道での体温測定
  • 自動血圧測定器による血圧測定
  • 新生児以外で入院治療の必要がない者に対する、パルスオキシメータを用いた動脈血酸素飽和度の測定

2022年(令和4年)には、パルスオキシメータ装着後の動脈血酸素飽和度の確認や、ポンプ式を含む半自動血圧測定器による血圧測定についても整理されています※6。ただし、病状が不安定であるなど専門的な管理が必要な場合には、これらの測定であっても医行為に該当する場合があります。

薬剤師が行えるフィジカルアセスメントとは

薬剤師による体温・血圧測定の可否を直接示した公的文書は確認できませんが、日本病院薬剤師会の資料では、薬害防止や適正使用の確保を目的としたバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントについて、薬剤師が行い得る業務として整理されています※3。

2014年の日本病院薬剤師会の解釈では、フィジカルアセスメントについて次のように整理されています※5。

行う内容医師の了解
血圧、脈拍、体温、呼吸数、意識レベルなどの確認条件として示されていない
打診、聴診、心電図解読などの評価得たうえで行う

この資料では、打診・聴診・心電図の評価について「医師の了解を得たうえで行う」とされています。

一方、視診と触診については、上記の分類の中で明確に名指しされていません。

そのため、浮腫の有無を確認する、腹部を触れて状態を確認するといった行為について、医師の了解が必要かどうかをこの資料だけで一律に判断することはできません。

ただし、視診・触診はいずれもフィジカルアセスメントを構成する基本的な手技です※3。

実際の業務へ取り入れる際には、目的を明確にしたうえで、施設内のルールや連携体制に沿って運用することが重要です。

※1 出典:e-Gov法令検索「医師法」(2026年9月3日閲覧)
※2 出典:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(2026年9月3日閲覧)
※3 出典:日本病院薬剤師会「薬剤師によるフィジカルアセスメント~バイタルサインを学ぶ~」(2026年9月3日閲覧)
※4 出典:厚生労働省「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(2026年9月3日閲覧)
※5 出典:日本病院薬剤師会「厚生労働省医政局長通知(医政発0430第1号)「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」日本病院薬剤師会による解釈と実践事例(Ver.2.0)」(2026年9月3日閲覧)
※6 出典:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)」(2026年9月3日閲覧)

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身体所見は自覚症状や検査値と組み合わせて評価する

バイタルサインや身体所見は、数値や所見を確認しただけではフィジカルアセスメントとはいえません。

その所見が患者の状態や薬物療法とどのように関連しているのかを考えることが重要です。

例えば、血圧が低下している場合でも、それが降圧薬の影響なのか、脱水によるものなのか、あるいはもともとの血圧が低い患者なのかは、血圧値だけでは判断できません。

「いつから低いのか」「どのような状況で低下するのか」「ふらつきなどの症状はあるのか」といった情報を患者から聴取し、身体所見や検査所見と組み合わせて評価します※1。

身体所見を評価するには、知識・技能・態度が必要

フィジカルアセスメントに必要なのは手技だけではありません。

日本病院薬剤師会の資料では、「知識」「技能」「態度」の3つが重要とされています※2。

  • 知識:人体解剖学、人体生理学、病態生理学
  • 技能:視診、触診、打診、聴診
  • 態度:適切な身支度、患者への説明と了解、不快感を与えない配慮、手順を説明しながら進めること

例えば、間質性肺炎の発現に注意が必要な薬剤を投与している患者では、次のような情報を組み合わせて経過を確認し、早期発見につなげることが示されています※3。

  • 空咳、息切れ、発熱、呼吸困難などの自覚症状
  • 聴診による捻髪音の確認等フィジカルアセスメント
  • CRP、LDH、KL-6などの検査値の推移

なお、聴診については、前述のとおり医師の了解を得たうえで行う手技として整理されています。

症状は経過・部位・性質・発現状況まで確認する

患者から自覚症状を聴取する際には、症状の有無だけを確認するのではなく、次のような情報まで具体的に確認します※1。

  • 症状の経過
  • 部位
  • 性質
  • 発現するタイミング
  • 増悪・軽快する要因

患者から「特に変わりありません」と回答があった場合でも、必要に応じて具体的に確認することが大切です。

「いつから」「どの症状が」「どの程度変化していないのか」まで掘り下げることで、薬物療法の評価に必要な情報が得られます。

「異常なし」も重要な評価結果

自覚症状や身体所見に異常を認めなかった場合も、その結果を記録に残します※1。

「問題がなかった」という確認結果も、薬物療法の有効性・安全性を継続的に評価するうえで重要な情報です。

記録の残し方については、薬歴の書き方の記事もご覧ください。

※1 出典:日本病院薬剤師会「病院薬剤師におけるフィジカルアセスメントを端緒とするプレアボイド報告の手引き」(2026年9月3日閲覧)
※2 出典:日本病院薬剤師会「薬剤師によるフィジカルアセスメント~バイタルサインを学ぶ~」(2026年9月3日閲覧)
※3 出典:日本病院薬剤師会「厚生労働省医政局長通知(医政発0430第1号)「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」日本病院薬剤師会による解釈と実践事例(Ver.2.0)」(2026年9月3日閲覧)

フィジカルアセスメントを業務に取りいれるための確認事項

薬剤師がフィジカルアセスメントを新たに身につけ、実際の業務へ取りいれる際には、目的の確認、施設内での合意、技能の習得が重要です※1。

目的は薬物療法の評価と副作用の早期発見

まず、フィジカルアセスメントを何のために行うのかを明確にします。

薬剤師が行うフィジカルアセスメントの目的として示されているのは、薬物療法が適切に行われていることの確認と、副作用の早期発見です※1。

疾患そのものの診断ではなく、薬物療法の有効性・安全性を評価するために行うという目的を明確にしておくことが重要です。

施設内で役割と運用方法を共有する

フィジカルアセスメントを業務に取り入れる場合には、患者本人からの了解だけでなく、施設内での役割分担や運用方法についても整理しておく必要があります。

薬剤師が副作用の早期発見などを目的としてバイタルサインを確認することについて、施設内で適切な業務として共有されていることが重要です※1。

2010年の厚生労働省通知では、医療機関について、まず施設内の実情を把握し、各業務の管理者・担当者の責任を明確にしたうえで、連携・協力の方法を決めることが示されています※2。

薬局について同じ形で具体的な手順を示した文書は確認できませんが、実際に業務へ取り入れる際には、管理薬剤師や連携先の医師などと役割や対応方法をあらかじめ整理しておくことが重要です。

十分な知識と技能を習得してから実施する

3つ目は、フィジカルアセスメントに必要な技能の習得です。

十分な知識・技能を持たない状態で実施することは、かえって患者へ不利益を与える可能性があります※1。

フィジカルアセスメントに関する教育を十分に受けていない場合には、解剖学、生理学、病態生理学などの知識と、視診・触診・打診・聴診などの技能を習得する必要があります。

また、個人で学習するだけでなく、施設として臨床能力を高めるための研修体制を整備することも重要とされています※1。

必要に応じて聴診器や血圧計などの機器を整備する

バイタルサインの確認やフィジカルアセスメントを実際に行うためには、血圧計や聴診器、パルスオキシメータなど、目的に応じた機器も必要になります。

大阪府薬剤師会に所属する保険薬局を対象として2016年10月に行われた調査では、在宅患者訪問薬剤管理指導を実施している648薬局のうち、75.4%が「在宅訪問時のバイタルサイン測定が必要」と回答しました※3。

一方、実際に測定していたのは121薬局、18.7%でした※3。

測定していなかった527薬局に理由を尋ねたところ、最も多かったのは「聴診器や血圧計などの機器を持っていない」で301薬局、次いで「その他」が239薬局、「医師の許可がおりないなど機会がない」が216薬局でした※3。

フィジカルアセスメントを業務へ取り入れる際には、必要な機器の整備についても施設内の運用ルールとあわせて検討するとよいでしょう。

在宅訪問の進め方については、薬局の居宅療養管理指導の記事もご覧ください。

患者へ説明し、了解を得てから行う

実際に患者へフィジカルアセスメントを行う際には、身体所見を確認する目的や方法を説明し、了解を得たうえで進めます※1。

また、手順を説明しながら実施することに加え、手や聴診器を温めるなど、患者へ不快感を与えないための配慮も重要です※1。

フィジカルアセスメントでは、手技だけでなく、得られた所見を薬物療法と関連づけて評価する知識が必要です。

ためとこでは、薬剤師の実務に役立つコンテンツを最短15分から学習できます。日々の薬学的管理に必要な知識を身につける手段として、ぜひご活用ください。

なお、制度や関連する考え方は今後変更される可能性があります。実際の業務で判断に迷う場合には、本記事で紹介した出典の最新版もあわせてご確認ください。

※1 出典:日本病院薬剤師会「薬剤師によるフィジカルアセスメント~バイタルサインを学ぶ~」(2026年9月3日閲覧)
※2 出典:厚生労働省「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」(2026年9月3日閲覧)
※3 出典:J-STAGE「在宅医療における薬局薬剤師によるバイタルサイン測定についての大阪府の現状調査と課題の抽出」(2026年9月3日閲覧)

異常を認めた場合は医師へ情報提供・提案する

バイタルサインや身体所見を確認することと、その結果をもとに治療内容を決定することは分けて考える必要があります。

2005年(平成17年)の通知では、測定した数値をもとに投薬の要否などの医学的判断を行うことは医行為にあたるとされています※1。

2022年(令和4年)の通知でも、同様の考え方が示されています※2。

これらの通知は、主として医療に関する免許を持たない人が介護現場などで行う行為を整理したものであり、薬剤師を直接の対象としたものではありません。

一方で、「測定・評価」と「治療内容の決定」を分けて考えることは、薬剤師がフィジカルアセスメントを行ううえでも重要です。

どのような症状や数値を認めた場合に、誰へ、どのタイミングで報告するのかについて、施設内であらかじめ基準を共有しておくとよいでしょう。

日本病院薬剤師会の解釈では、薬剤師が自覚症状やバイタルサインを確認し、副作用や治療効果を評価したうえで、治療継続の妥当性を薬学的に評価する流れが示されています※3。

患者の状態に問題があると判断した場合には、必要に応じて受診を勧奨し、速やかに医師へ情報提供します。

薬剤師として「このまま継続することにはリスクがある」と評価し、処方医へ薬剤の変更・中止などを提案することは重要な役割です。

一方、実際に投薬を継続するか、中止・変更するかといった治療方針の決定は処方医が行います。

所見だけでなく、薬学的評価の根拠を伝える

医師へ情報提供する際には、確認した身体所見だけでなく、なぜその薬剤との関連を疑ったのかという薬学的な根拠もあわせて伝えることが重要です。

先ほどのフェニトインの事例では、薬剤師は眼振という身体所見に加えて、次の情報を医師へ提供しています※4。

  • S-1に含まれるテガフールによる代謝阻害によって、フェニトインの血中濃度が上昇している可能性
  • S-1とフェニトインの併用開始3~4週後にフェニトイン中毒症状が発現した報告があること

フェニトインの血中濃度は、緊急入院した28日目と薬剤師が医師と協議した32日目の検体で、それぞれ58.0μg/mL、47.4μg/mLでした。

いずれも有効血中濃度とされる10~20μg/mLを大きく上回っていました。

身体所見と医薬品情報を組み合わせて評価することで、薬剤師ならではの処方提案につなげることができます。

他職種やカルテから得た情報も、患者の状態を確認して評価する

フィジカルアセスメントのきっかけとなる情報を、必ずしも薬剤師自身が最初に発見するとは限りません。

カルテや他職種から得た情報がきっかけとなった場合でも、薬剤師自身が副作用症状について詳細を確認することが重要です※4。

確認は、患者本人との面談だけでなく、家族や他職種からの聴取、紹介状などの情報を通じて行う場合もあります。

看護師からの報告をきっかけとした口腔粘膜障害の事例では、薬剤師が患者と面談し、4日前から歯肉の腫れと痛みがあることを聴取しました。

さらに口腔内を確認し、Grade 3の口腔粘膜障害と評価しました。

この評価をもとに薬剤師が主治医へ投与延期を提案した結果、テムシロリムスは休薬となりました。

提案の根拠となったのは添付文書の休薬基準であり、間質性肺疾患以外の重度(Grade 3以上)の副作用が発現した場合には、回復まで投与を休止することが示されています※4。

このように、身体所見を確認するだけでなく、薬剤の副作用情報や添付文書、患者背景などと組み合わせて評価し、医師への具体的な提案につなげることが薬剤師には求められます。

※1 出典:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」(2026年9月3日閲覧)
※2 出典:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)」(2026年9月3日閲覧)
※3 出典:日本病院薬剤師会「厚生労働省医政局長通知(医政発0430第1号)「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」日本病院薬剤師会による解釈と実践事例(Ver.2.0)」(2026年9月3日閲覧)
※4 出典:日本病院薬剤師会「病院薬剤師におけるフィジカルアセスメントを端緒とするプレアボイド報告の手引き」(2026年9月3日閲覧)

薬剤師のフィジカルアセスメントに関するよくある質問

バイタルサインとフィジカルアセスメントの違いは何ですか

バイタルサインは、患者の全身状態を把握するために確認する基本的な身体情報です。

一方、フィジカルアセスメントは、バイタルサインを含む身体所見を収集し、それらを患者の自覚症状や検査所見、薬物療法などと関連づけて評価する一連の過程を指します。

つまり、血圧や脈拍などを「測定する」だけではなく、その結果から何を考え、薬物療法の評価にどうつなげたかまでが重要です。

薬剤師が血圧や体温を測ることは医行為ですか?

日本病院薬剤師会の資料では、薬害防止や医薬品の適正使用を目的として行うバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントは、薬剤師が従前から適法に行い得る行為として整理されています。

また、2005年(平成17年)の厚生労働省通知では、電子体温計による体温測定や、自動血圧測定器による血圧測定は、一定の条件下で原則として医行為ではないと整理されています。

ただし、この通知は医療に関する免許を持たない人を主な対象としたものであり、薬剤師について同じ整理を直接示したものではありません。

薬剤師が実施する場合には、薬害防止や医薬品の適正使用など、薬学的管理を目的として行うことが重要です。

また、測定結果をもとに投薬の要否そのものを決定することとは区別し、必要に応じて処方医への情報提供・提案につなげます。

フィジカルアセスメントを薬剤師の業務に生かすために

薬剤師によるフィジカルアセスメントは、単に血圧や体温を測定することではありません。

患者の自覚症状、身体所見、検査所見、使用薬剤などの情報を組み合わせ、薬物療法の有効性と安全性を薬学的に評価することが重要です。

薬害防止や医薬品の適正使用を目的とするバイタルサインの確認やフィジカルアセスメントは、薬剤師が行い得る業務として整理されています。

一方で、実際に業務へ取り入れる際には、実施する目的や方法、医師への報告基準などを施設内であらかじめ整理しておく必要があります。

また、打診・聴診・心電図の評価については医師の了解を得たうえで行うことが示されています。視診・触診については明確な記載がないため、施設内で取り扱いを確認しておくとよいでしょう。

そして、得られた身体所見は、患者から聴取した症状や検査値と組み合わせて評価します。

異常を認めた場合には、薬剤師自身で治療内容を決定するのではなく、薬学的な評価とその根拠を整理したうえで処方医へ情報提供・提案します。

フィジカルアセスメントは、薬剤師が患者の状態をより深く把握し、副作用の早期発見や薬物療法の適正化につなげるための重要な手段の1つです。

まずは自施設でどのような場面に活用できるのかを整理し、必要な知識・技能を身につけるところから始めてみましょう。

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